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長寿奪還に向けて(2008年1月8日掲載)

下地國浩(県立中部病院)

生活習慣病対策が急務

多くの人の意識変容から

今や「メタボリック症候群」「生活習慣病」という言葉を見聞きしない日はありません。診断基準では、腹囲で男性八十五センチ、女性九十センチ以上を必須とし、中性脂肪が150mg/dl以上、もしくはHDL―Cが40mg/dl以下、血圧は、収縮期血圧130mmHg以上、もしくは拡張期血圧が85mmHg以上、空腹時血糖値は110mg/dl以上を異常値とし、三つのうち二つを満たせば、メタボリック症候群と診断されます。

腹囲は内臓脂肪と関連があります。内臓脂肪が肥大してくると、インスリン抵抗性を引き起こし、血圧、脂質・糖代謝に悪影響を及ぼすアディポサイトカインを分泌し、善玉とされるアディポネクチンの産生が低下します。その結果、内臓脂肪が蓄積し、肥満が健康を害する危険性が高いと言われています。

間食を控え、糖分や脂身の少ない食事を心掛け、三十分から一時間程度のウオーキングを実践することで、数カ月で二―三キロの減量を達成し、HbA1cや血圧、脂質、インスリン抵抗性、腹囲が改善することは、珍しくはありません。

一方、すべての方を腹囲で規定することは異論のあるところだと思います。しかし、26ショック以降、長寿王国沖縄の崩落の原因は、さまざまな角度から分析され、一定の見解を得ていることも否定できません。

現在の沖縄の肥満は、戦後、アメリカの食文化が流れ込み、脂肪摂取の過剰を招き、復興とともに車社会へ移り、一気にグローバル化した利便性優先の結果、肉体を使わなくなり、余ったエネルギーが、おなかの脂肪として蓄積されているのです。

それに加え、テレビやクーラーのスイッチも、動かずにリモコンで「ピッ!」。人と話すのも、その場で、携帯を「ピッポッパ」。洗濯機も「ピッ!」で完了。近くのコンビニ、スーパーへ行くのも車。利便性と引き換えに手に入れたこのおなか、と相成るわけです。

新聞、テレビなどの報道や行政の働きのおかげもあり、県民レベルでも健康に対する認識が、徐々に高まってきたように感じます。それでも、早世の方が沖縄は多く、肥満も全国一位であり、近い将来、より厳しい現実を突きつけられる可能性があります。私自身、北は辺戸の公民館から、南は南大東島に至る沖縄各地での健康講演や診療を行いながら、生活習慣病対策を急務とする現状をまざまざと見てきました。

二〇〇六年に「ストップ・沖縄クライシス」を旗印に、看護師、薬剤師、栄養士の方々、有志の専門医、行政等と情報交換を行い、啓発普及の役割を持つ、沖縄メタボリック・ワーキング(OMW)を開催しました。既に、那覇市、中部、宮古、八重山で医療者のみならず一般住民向けに講演活動を行っており、〇八年にも、名護市や那覇市の共催による市民公開講座も予定されています。事務局を担当させてもらい、やりがいと責任の重さを感じています。

そして、当院の業務の一環として、近隣の市町村の公民館や学校まで出向いて、一般の方々へ健康講演も行っています。こういった活動が、一人でも多く皆さまの意識変容に寄与した時、長寿奪還に向けて動き始めるものと思います。