皆さんは糖尿病という病気に対して、どのようなイメージを持っているでしょうか。「のどが渇く」「尿が多くなる」などの自覚症状に対するものから、中には「糖尿病になったら足を切られる」といった、いささか飛躍したものまで、いろいろあると思います(実際にはいきなりそうなるわけでは決してありません。念のため)。
逆に「会社の健診で糖が高いと言われたけど、痛くもかゆくもないし、大した事はないと思っていた」という方もいらっしゃるでしょう。確かに糖尿病の場合、自覚症状が乏しい、あるいはまったく無自覚の場合も少なくありません。では、症状がなければ大したことはないのでしょうか。
血液中のブドウ糖濃度、すなわち血糖値は、空腹状態で80〜100、食後でもせいぜい120〜130mg/dLと、常に非常に狭い範囲に調節されています。これが糖尿病になると慢性的に血糖値の高い状態が続くことになります。具体的には空腹時で126以上、あるいは食後二時間たっても血糖値が200を超えている場合、糖尿病と診断します。実は困ったことに、かなりの高血糖状態にならない限り、のどが渇いたり、多尿になるなどの自覚症状はほとんど出ません。
しかし、この持続的な高血糖状態がさまざまな合併症を引き起こすことが分かっています。糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性末梢(まっしょう)神経障害といったいわゆる三大合併症や、動脈硬化の進行にもとづく心筋梗塞(こうそく)、脳梗塞などです。
「高血糖の記憶」という言葉があります。
高血糖がなぜ合併症を進行させるかについてはさまざまなメカニズムが知られていますが、そのひとつに糖化現象があります。これはブドウ糖がタンパク質と自然に結合する現象のことです。いったん両者が結合すると、離れることはなく、しかもタンパク質の構造を徐々に変化させます。その反応は血糖値が高いほど多く起こることになります。タンパク質は体内の至る所に存在しますので、まさに全身でこの反応が起こることになります。
また、タンパク質は、入れ替わりの早いものから、遅いものまでさまざまです。入れ替わりのほとんどないタンパク質では、まさに過去の高血糖が「記憶」されるかのごとく、糖化物質が蓄積され、これが合併症につながっていくのです。ある研究では、「高血糖の記憶」は、少なくとも数年程度では消えないとされています。このことは高血糖の早期発見、早期治療がいかに重要であるかを物語っています。さらに、治療を途中で中断したときの不利益も大きいことも示しています。
糖尿病の場合、生涯に渡って治療を継続する必要がありますが、しばしば治療を中断してしまう方がいます。治療を継続するためには困難を伴うこともあると思います。しかし、コントロールが悪いながらも治療を継続した場合と放置した場合を比べると、合併症がより少なくなるというデータもあります。身に覚えのある方は、これを機会にぜひ治療を再開してくださることを祈っています。