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狭心症・心筋梗塞(2007年12月11日掲載)

澤岻由希子(翔南病院)

薬剤塗布で再狭窄少なく

新タイプのステント留置療法

心臓は全身に血液を送るポンプの働きをしている大切な臓器です。その心臓を冠のように取り囲み、心臓の筋肉(心筋)に酸素と栄養を送っている血管を冠動脈といいます。冠動脈の内腔が狭くなって、心筋に十分な血液が流れなくなる状態が狭心症、冠動脈が完全に閉塞(へいそく)することにより心筋に壊死(えし)を起こし、心臓の動きが悪くなる心不全や不整脈、心破裂などにより死に至る事もある病気が心筋梗塞(こうそく)です。

動脈硬化によって狭くなった、あるいは閉塞した冠動脈の血流を回復させる治療は、カテーテルによる治療(冠動脈インターベンション)と、外科手術(冠動脈バイパス術)に大別されます。

冠動脈インターベンションは循環器内科医が行います。脚の付け根、あるいは手首やひじの動脈からカテーテルという細い管を冠動脈に挿入して治療します。先端に細長いバルーン(風船)をつけたバルーンカテーテルを冠動脈の狭窄(きょうさく)部、あるいは閉塞部まで送り込み、バルーンを膨らませて冠動脈を内側から押し広げます。バルーンによる拡張だけでは再び狭窄を起こす可能性が高いため、再狭窄を防ぐ方法として冠動脈にステントを入れる治療法があります。ステントとは、金属でできた網状の筒で、冠動脈を内側から支えます。しかしステントで広げた部分も、治療して三―六カ月後には30―40%程度の頻度で再狭窄が起こるため、繰り返しの治療が必要となることが大きな問題でした。

近年、ステント再狭窄を防ぐ新しいタイプのステント留置療法が始まっています。この新しいタイプのステントは、再狭窄を予防する薬剤(免疫抑制剤)がステント表面に塗布されており、薬剤溶出性ステントといいます。ステント再狭窄の大きな原因はステント留置部での血管の壁を形成する細胞の過剰増殖ですが、それを免疫抑制剤が抑制します。全身に免疫抑制剤を投与すると副作用の心配があるため、冠動脈内の治療を行う局所だけに薬剤を到達させ、全身的な影響を最小限にするように工夫されました。

ステントに塗布された薬剤は、ステントを留置してから一カ月ほどの間、徐々に放出され、ステント再狭窄の危険性が高い時期を乗り切ることができ、ステント再狭窄が10%未満にまで減少するといわれています。

留置後は、ステントに血のかたまり(血栓)が付着して心筋梗塞になることを予防するために、血栓をつくりにくくする薬を内服しますが、薬剤溶出性ステント留置後は従来のステントよりも長期間にわたり内服する必要があります。

血栓を予防する薬を長期間内服する必要があることから、何らかの手術を予定している患者さんには使用しづらいなどの問題もあります。また病状や冠動脈の状態によっては、冠動脈バイパス術の方が良い結果が得られる場合もありますので、治療方針に関しては担当の循環器専門医とよく相談することが大切です。