「あなたの病名は早期胃がんです」と言われたらどう感じますか?
早期とはいってもやはりがんですから大抵の方は不快で、生きた心地がしないものです。日本人の胃がん罹患(りかん)率は高く、昔から胃がんの診断・治療に多くの情熱が注がれてきました。そのため、日本の胃がん診療は世界に誇れる医療分野であり、治療を行った早期胃がんの五年生存率は90%以上と非常に高く、早期胃がんはしっかり治療できれば完治可能な疾患といえます。
早期胃がんということで、おなかを開けて手術するかというと、すべてのがんを手術で治療する訳ではありません。内視鏡(胃カメラ)を使って治療できるがんもあります。
内視鏡で治療できるがんは(1)かいようがなく粘膜層にとどまっているがん(2)分化度の高いがん(正常の胃粘膜細胞に近く転移しにくいがん)(3)二センチ以内のがん―の条件を満たさなければなりません。予後を大きく左右するのはリンパ節などへの転移といわれ、三つの条件を満たせば転移は極めて少ないと報告されています。
言い換えれば、内視鏡で治療できるがんは、粘膜に存在し、転移のないがんということになります。
検査の結果、分化度の高いがんで粘膜にとどまっており、大きさが二センチを超えている場合はどうでしょうか。実は、最近の検討により二センチ以上の病変にも転移のない胃がんが多く存在することがわかってきました。
そのような胃がんをなんとか内視鏡だけで治療したいと、さまざまな工夫がされてきましたが、従来行っていた方法では確実に切除するには不十分でした。しかし近年、二センチを超える胃がんを内視鏡で切除できる新しい方法(内視鏡的粘膜下層剥離(はくり)術 Endoscopic Submucosal Dissection ESD)が開発され、二〇〇六年からは保険適用を受けました。ESDとは病変の下に液体を注入し、病変を盛り上がらせた後、病変周囲を切開し、粘膜下層(病変の下を)をはぎ、胃がんを取り除く方法です。この方法では、従来切除できなかった二センチを超えるがんでも一度に切除することができます。治療後数日で普段と同じ食事や生活に戻れ、患者さんの負担が少ない治療といえます。ただし欠点もあり、手技が複雑で切除に時間がかかり、出血や穿孔(せんこう)(胃に穴があくこと)の危険が高くなります。
十分なインフォームド・コンセントの上で、内視鏡治療が無事終了したのちは、病理検査を行い、その後は再発してこないか、別の場所にがんができていないか、定期的に内視鏡検査を行います。
内視鏡治療の幅が広がり、内視鏡治療だけで完治ができる患者さんが増えています。
しかし、変わらず重要なことは、胃がんをなるべく早期で発見することです。四十歳を過ぎれば症状がなくても定期的に検査を受けて早い段階で、がんを見つけるように心がけましょう。