おねしょを主訴に外来を受診するお子さんはそう多くありませんが、修学旅行前になんとか治したい、あるいは何かのついでに相談したいという場合があります。年齢が五歳以上で、少なくとも週二回以上のおねしょが三カ月以上続き、生活上とても深刻で困っている場合を夜尿症といいます。
子どもの成長とともに発達していく排尿のメカニズムについてお話しします。乳児期は大脳からの抑制を受けずに、反射的に排尿します(反射性ぼうこう)。一歳ごろになると大脳で尿意を感じますが、やはり反射的に排尿してしまいます(無抑制ぼうこう)。二歳ごろになると尿意を訴えることができるようになるため、タイミングがよければトイレで排尿できるようになり、三歳以降になると尿意を感じ、大脳からの抑制を受けて排尿を我慢でき、適切な場所で排尿ができるようになります(排尿コントロールの確立)。
したがって、トイレトレーニングは排尿機能が発達するとともに、判断したり表現したりする心の成長、それらをつなぐ神経の発達がそろう二歳ごろから始めるのが普通です。排便、昼間の排尿、夜間の排尿の順番にコントロールがつくため、おねしょは四―五歳までみられることになります。
夜尿症の原因は何でしょうか? 夜尿症は、生まれてからずっと続いている「一次性夜尿症」と、六カ月以上自立した後に再発する「二次性夜尿症」に分けられます。
一次性夜尿症の原因は(1)夜間の抗利尿ホルモン(尿を濃縮させるホルモン)の分泌が少ない(2)ぼうこう機能が不安定(3)尿がたまっても起きられない―の三つです。
一方、二次性夜尿症は、何らかの病気が関係していることがあるため要注意です。糖尿病、尿崩症、神経性多飲症、慢性尿路感染症、てんかん、睡眠時無呼吸症候群、心理的ストレスなどが挙げられます。
夜尿症の治療は生活指導、行動療法、薬物療法の三本柱で行います。生活指導は、就寝二時間前は水分を制限し、夕食は塩分控えめ、汁物を控えめにする、就寝前に必ず排尿する、しかったり罰を与えたりすることは逆効果となるためやめるといったことなどです。
行動療法として有名なのが、就寝中、下着がぬれると大きなアラームで起こされる「夜尿アラーム療法」です。この療法では目覚まし反射が形成されるのではなく、睡眠中のぼうこうの大きさが増すことで、尿意で目覚めることなしに朝までもつようになります。薬物療法では抗利尿ホルモンや一部の抗うつ剤で有効性が証明されています。
夜尿症は治療しなくても、年に10%が自然に治っていきます。従って「起こさない、あせらない、しからない、そのうち治るでしょう」と指導するのは間違いではありません。
しかし最近、夜尿に悩む子どもたちは、恥ずかしくて人には言えず、自己評価が低いため対人関係に問題が生じたり、学力低下の原因となったり、心理的、身体的虐待のリスクとなるといった心理社会的な問題が生じることが分かっています。ただ安心させるだけでは不十分であり、特に本人が希望した場合には、治療することをおすすめします。