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伝統食と肥満対策(2007年10月16日掲載)

久田友一郎(浦添総合病院)

「法食」時代の始まり

チャンプルーに落とし穴

九月十五日付の本紙ビジュアル特集「健康長寿『長寿ブランド』の危機―平均寿命 女性も首位転落確実―」をお読みになりましたか?

世界保健機関(WHO)は二〇〇〇年、肥満・メタボリック症候群が人生の生活の質(QOL)を決定する中心的疾病となると予測した。沖縄県で起こっている肥満社会の出現は、WHOの予測が現実問題として浮上したことを実証した。先人が築いてきた「栄光に輝いた長寿県沖縄ブランド」は失墜した。

人類が誕生して四百五十万年、その歴史は飢餓との闘いだった。人類は食べたものを体内の脂肪細胞に効率的に蓄え込む代謝経路を進化させ、生き延びてきた。「食べて生き残る」ことが生存の本能。しかし、飢餓の時代が去り、豊かな食文化がはぐくまれてきた。

食の歴史を振り返ってみよう。長年にわたる飢餓の時代、次いで貧しいなりに栄養バランスの取れた食の時代、そして豊食の時代が訪れた。食べられるだけ食べるという「貪(どん)食の遺伝子」が活発に活動する飽食から「崩食」へ、ついに「呆(ほう)食」の時代となったともいえる。過剰な脂肪摂取と運動不足が肥満の原因だ。来年度から実施される特定健康診査・特定保健指導は、法律で肥満を取り締まる「法食」の時代が始まる象徴ともいえる。

沖縄県の肥満社会化の歴史を振り返ってみると、一九四五年までは戦前の食文化だ。それまで約三百五十年間は主食がさつま芋、主菜は豆腐と魚、副菜は葉菜類、果菜類、根菜類を取っていた。米国占領統治下の六二年には、脂質と獣肉類といったタンパク質の摂取量が欧米並みとなった。肥満の増加が始まる時代の幕開けだ。その後、日本復帰し、和食文化が流入。沖縄県は常に異文化との接触・交流を強いられてきた。

肥満の要因にファストフードが問題視されるが、私は現在のチャンプルーが肥満に影響していると考えている。チャンプルーが庶民に食されるようになったのは五五年ごろからだが、当時のチャンプルーは栄養バランスも優れ、健康長寿沖縄に貢献してきた。しかし現在、皆さんが食しているチャンプルーの脂質含有量をご存じだろうか? 一食分に、実に一日の脂質適正摂取量に匹敵する四十―五十グラムの脂質が含まれている。

従来、沖縄県の食文化は祖父母から親へ、そして子どもへと受け継がれてきた。地域で生産された食材(薬草)を使い、栄養学的にも、調理体系にも実にバランスのとれた食事であったといわれている。代々受け継がれてきた食習慣は、各家庭独自の「おふくろの味」を生み出した。しかし現在、県民の肥満への危機意識は薄く、優れた沖縄の伝統的食文化への興味や評価は依然として低いのが現状だ。しかし、沖縄の伝統食の復権に意欲的に挑戦し、ヘルシーチャンプルーの開発と普及活動を展開している人たちがいる。

先人の作り上げた沖縄の伝統食が脚光を浴び、肥満県沖縄がどのように減量に挑み、肥満を克服したか、伝統文化に輝く県民の英知が試されている

推薦図書 『チャンプルーとうちなーごはん』友利和子+沖縄の食を考える会著