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偶発下垂体腺腫(2007年10月9日掲載)

仲宗根進(県立中部病院)

大きさや位置で手術も

年1回のMRI検査を

近年、頭痛の精査や念のために行った脳ドックで偶然に下垂体腺腫を発見されるケースが増えています。このように検査で偶然に発見された下垂体腺腫は「偶発下垂体腺腫」と呼ばれていますが、通常の下垂体腺腫と何ら変わりません。

下垂体腺腫は脳腫瘍(しゅよう)の約15%を占める良性腫瘍です。脳腫瘍の頻度が約一万人に一人ですので、人口約百三十万人の沖縄県では年間百三十人の脳腫瘍が発生し、そのうち十九人前後が下垂体腺腫と診断されている計算になります。

原因は不明ですが、遺伝性はなく、長年放置して巨大化しない限り、命にかかわる病気ではありません。

下垂体は小指の先くらいの大きさで、頭蓋(ずがい)底のほぼ中心にあるトルコ鞍(あん)と呼ばれる骨のくぼみに入っています。大体みけんの奥で、両側こめかみの中央部に位置します。上方には視神経、両サイドには眼を動かす神経や内頸(けい)動脈および海綿静脈洞などに囲まれています。この下垂体から発生する腫瘍が下垂体腺腫と呼ばれるもので、ホルモンを産生するホルモン産生腺腫とホルモンを産生しない非機能性腺腫とがあります。ホルモン産生腺腫の場合は産生するホルモンに応じた症状が表に出てきますので、大抵、内科の先生が見つけてくれます。

ホルモンを産生しない非機能性腺腫の場合は、腺腫がある程度大きくなってから見つかることが多く、前頭部痛、視力視野障害、前葉機能低下などが見られます。多くは目がかすむ、新聞が読みにくいなどの訴えで眼科を受診し、視野検査で特徴的な両耳側半盲を指摘され、脳外科へ紹介されることがほとんどです。そして症状がでないくらい小さい腺腫か、症状を自覚してない患者さんが、偶発下垂体腺腫として発見されるわけです。

下垂体腺腫は本来、成長の遅い良性の腫瘍ですので、ホルモンを産生してない一センチ以下の小さな腺腫なら治療の必要はなく、年に一回程度の磁気共鳴画像装置(MRI)検査で増大してないことを確認すれば十分です。

しかし、症状がなくても、腺腫がトルコ鞍から頭蓋内の方へ伸びて、視神経を圧迫しているような場合は、手術を考えた方がいいでしょう。ある程度の大きさになった腺腫は下垂体卒中といって出血してしまう危険性があることや、頭の方へ大きく伸びたり、海綿静脈洞の中へ入り込んでしまうと手術で完全に治すことができなくなるからです。手術は開頭手術と鼻から行う経蝶形骨洞手術がありますが、腺腫の大きさにかかわらず、経蝶形骨洞手術が基本です。

顕微鏡下で、上唇のつけ根から鼻腔(びくう)に入り頭蓋底に達したあと、蝶形骨洞とトルコ鞍の骨を削り、腺腫を摘出します。最近は内視鏡を併用したり、内視鏡だけを用いる手術など患者さんへの負担が軽い手術の試みが進んでいますが、出血のコントロールや髄液漏出の際の修復などは顕微鏡下の手術が安全で確実です。腫瘍が小さい場合は手技的に困難なことはありませんが、視神経を圧迫したり、海綿静脈洞に及ぶような大型の腺腫では、合併症の危険性も高くなります。正常組織を温存し、腺腫のみを摘出するためには、ある程度の技術と経験が必要となります。