私たちが病気になったときに治療に使う薬は個人によって効き方が違います。効き目が出てすぐに治る人もいれば、効果の薄い人もいます。人によっては副作用を起こすこともあります。
これは、「体質の違い」と言われてきました。薬を投与してみないとその効果や副作用の程度がわからず、予測困難でした。
「体質」とは、個人のもつ遺伝情報によって決まります。ヒトの遺伝情報は、三十億個の文字で書かれ、約三万種類の単語があると例えられます。この単語が遺伝子に相当します。
遺伝子はDNAの中にあり、このDNAとそれに書き込まれた遺伝情報全体のことをゲノムといいます。同じヒト同士でも三十億個のうち三百万―千万カ所に異なる文字があり、これをスニップ(一塩基多型)と言います。これが遺伝子の個人差です。
一つのスニップの違いがさまざまに組み合わさり、世界中で同じ人はいないという「体質の多様性」を生み出します。
このスニップを明らかにして、薬の効果・副作用や病気との関係を調べ、個々の体質にあった薬の選択や病気の予防・治療に生かそう、というのが「オーダーメイド医療実現化プロジェクト」です。自分の体形に合わせて作るオーダーメードの服が既製服より着心地のいいように、医療もオーダーメードにして、治療前に薬の選択・投与量を決定し、副作用のない有効な治療が行えることが期待されます。二十一世紀型の医療と言えます。
このプロジェクトは、文部科学省の支援のもとに二〇〇三年六月から始まり、東京大学医科学研究所、理化学研究所遺伝子多型研究センターの二研究機関と、徳洲会グループ、日本医科大学、日本大学、順天堂大学、大阪医療センターなど十二の協力医療機関で構成されています。
患者さんからインフォームドコンセント(説明と同意)を得て、ゲノムを調べるための血液を頂いています。糖尿病などの生活習慣病や悪性腫瘍(しゅよう)、ぜんそくなどのアレルギー疾患など約四十七種類の病気について研究が行われています。
二〇〇七年六月までに、全国で十八万三千六百四十四人の患者さんに協力頂き、対象疾患の延べ数は二十六万千九百六十五件に達しています。
また、オーダーメード医療に関する研究の一つとして「スニップ解析装置」が開発され、現在、臨床現場での実用化を目指して研究が始まっています。
今回の研究では、抗凝固薬「ワーファリン」と抗がん剤「イリノテカン」の二種類の薬に関して、スニップ解析が行われています。薬の効果や副作用の危険性の指標が得られることが期待されます。
沖縄県でも同装置を用いた臨床研究が始まろうとしています。
オーダーメイド医療実現化プロジェクトホームページ http://biobankjp.org/