太郎「あれ、唇のそばに小さなブツブツができちゃった。二、三日前からチクチクしてちょっと痛いな」
花子「ああ、それは水ぶくれよ。ヘルペスじゃない? 私もなったことがあるわ。最近ちょっと疲れ気味じゃなかった? それとも風邪引いていた?」
太郎「海岸で日光に当たって疲れていたからかな?」
花子「疲れている時によく出るって言うし、うつるって言うから早く皮膚科に行って治した方がいいわよ」
こんな会話を聞いたり、あるいはご自身で経験がある方もいらっしゃるかと思います。ヘルペスは単純疱疹(ほうしん)といい、原因は単純ヘルペスウイルスの感染です。このウイルスは感染力が強く、接触による皮膚あるいは粘膜への感染のほかにウイルスがついたタオルやコップ、便器などを介しても感染します。
このウイルスの特徴は、初感染後、免疫ができ、その人に抗体ができても、潜伏したウイルスの再活性化により機会があれば再発や再感染を繰り返すということです。大人でよく見られる口唇ヘルペスはほとんどが再発型で、一年に平均一―二回繰り返すといわれます。
単純ヘルペスウイルスにはI型とII型のタイプがあります。I型は、口唇、顔面など主に上半身に発症します。幼児期に感染して口内炎などの症状を引き起こすことが多いようです。II型の感染は二十代以降に多く、性器を中心とする下半身に発症します。以前はほとんどの人が乳幼児期に周囲の人々との接触によりI型に感染して抗体を持っていましたが、衛生状態の改善や核家族化などの影響で、今日では二十―三十代でも半数ぐらいの人しか抗体を持っていません。乳幼児期の初感染は症状がないか、あっても軽いのに対して、大人の初感染は症状が重くなることが多いようです。I型に対する抗体を持っているとI型だけでなくII型にも感染しにくく、症状が出ても軽いようです。
初感染後のウイルスは神経節に潜み、きっかけがあれば増殖して口唇ヘルペスなどとして再発します。きっかけになることとしては、風邪、疲労、紫外線、胃腸障害、外傷、ストレス、老化、抗がん剤、副腎皮質ホルモン薬、免疫抑制剤など、体の免疫力や抵抗力の低下が誘因になります。
ヘルペスは水ぶくれやびらんが出ている時期はウイルスを大量に排出しています。この時期に患者に接触した人で、単純ヘルペスウイルス抗体を持っていない人や、あっても抵抗力が落ちている人は感染しやすくなります。ですからこの時期は人との接触に注意すること、患部に触れたらきちんと手を洗うこと、タオルや食器などを介した感染に注意することなどが大切です。
ヘルペスの皮膚症状は通常、二―四週間で治りますが、抗ウイルス剤で治療すると症状も軽く、一―二週間ほどでよくなるでしょう。しかし、抗ウイルス薬はウイルスを殺す作用はなく、増殖を抑制するもので、神経節に潜んでいるウイルスには効果はありません。ですから、症状が出ている間、特に出始めのウイルスが増えている間が治療のよい機会なのです。早めに皮膚科を受診してください。