私は内科医ですが、年々増え続ける生活習慣病と格闘する中、痛感するのは、現代の大人の、食に対する無認識さと無防備さです。大人の側の問題が子どもにも悪影響を及ぼしているのが垣間見えます。
生活習慣病は、「悪い生活習慣の結果、引き起こされた疾病」と言い換えることができると思いますが、現代の私たちは、悪い癖のつく環境にどっぷり漬かっているといっても過言ではありません。
かつて、豊かさの象徴であった欧米食は、肉中心で高カロリー。早くから私たちの口になじんでいます。その欧米食の代表ファストフード。今や沖縄は全国一の密集地です。さらに、レストラン、居酒屋などが立ち並びます。店ができるから食べるのか、食べるから店が増えるのか。中高年層の女性を中心に模合だ、同級生会だと頻繁に外食するグルメ族が増加しているのも気になるところです。
お祭り好きで人々の交流が盛んな沖縄では、行事のたびに、たくさん作って「かめーかめー」が常です。かつて、慢性の低栄養状態にあった県民にとって、行事は絶好の栄養補給の機会でした。しかし、普段からカロリーたっぷりの食にまみれている現代人に行事の「くわっちー」はむしろ、過栄養状態をもたらしています。
核家族化、共働きの増加などの社会環境の変化も一因と考えます。地域や世代間の交流が減少していく中、先人たちが継承してきた長寿沖縄の食の知恵は、継承者が減り、食事に対する省力化や孤食、遅い時間からの食事や外食の増加という環境を生んでいます。
一方、マスコミやネット、友人の口コミなど、求めなくても目や耳に飛び込んでくるさまざまな健康情報に翻弄(ほんろう)される大人たち。沖縄の食の知恵が、はんらんする健康情報と一緒くたになり、何が基本で大事なことなのか分からなくなっているのではないでしょうか。このことも、沖縄の食の危機を招いている原因のひとつと言えるかもしれません。
長寿県の名をほしいままにしてきた沖縄の食文化は岐路に立たされています。われわれは今、先人の知恵をかんがみ、そこに学び直さないといけないのではないでしょうか?
そこで一つ提案です。調理の際に「くわっちー」から「くすいむん」へ、発想の転換をということです。沖縄には「くすいむん」という医食同源の哲学がもたらした食の知恵があります。「くわっちー」は揚げ物をメインとするボリューム重視という印象がある一方で「くすいむん」には滋養がある、低カロリー、不足が補えるといったニュアンスがあります。素材重視、バランス重視、愛情重視とも言えるでしょう。
なかなか、三世代が集うことが難しくなってきた現代、お盆やお正月は三世代が集う絶好の交流の場。そこで大人は「くすいむん」メニューを子や孫と楽しく作り、食べながら継承の場としていく。
世界に誇る健康立県沖縄を次世代に引き継ぐため、すなわち子孫の健康長寿のため、まずはわれわれ大人が自身の食育に取り組みませんか。