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難聴~聴神経腫瘍(2007年9月11日掲載)

長嶺知明(県立南部医療センター・こども医療センター)

摘出手術や放射線で治療

1センチ以下なら経過観察も

難聴にもいろいろ原因がありますが、四十―六十歳の比較的若い方が、片側の耳だけ徐々に聴力が低下し、気付いたら電話の声が聞こえず、耳鼻科を受診されることがあります。ほとんどは鼓膜や聴器に原因があるのですが、まれに聴力をつかさどる聴神経に良性腫瘍(しゅよう)が発生し、聴力が低下していることがあります。最近は脳ドックでの磁気共鳴画像装置(MRI)で、一センチ以下の聴神経腫瘍が発見されることも多いですが、聴力低下を来している場合は、二―三センチ以上の大きな腫瘍が発見されることが多いです。

脳から直接出る神経は左右に十二対あり、聴神経は頭頂部から八番目に出ています。耳の奥の方にあり、顔面筋を動かす顔面神経と並んで走行しています。聴神経は三つの神経に分かれ、聴力をつかさどる蝸牛(かぎゅう)神経と平衡感覚をつかさどる上・下前庭神経で、腫瘍は主に前庭神経から発生します。そのため、聴力の低下はゆっくりで、めまいや耳鳴りの症状も出現します。

では、聴神経腫瘍と診断されたら、どのように対処すればいいのでしょうか。腫瘍の大きさと症状、年齢にもよりますが選択肢は三つあります。(1)開頭手術での腫瘍摘出(2)放射線治療(ガンマナイフ治療)(3)定期的にMRIを行い経過観察―。聴神経腫瘍は良性腫瘍であり、一センチ以下の症状の無い腫瘍は経過観察することも多く、腫瘍の成長速度が年一―二ミリ程度でありほとんど増大しない腫瘍も半分弱あります。どのような腫瘍に治療が必要かというと、急激な増大傾向を示すもの、大きさが二―三センチ以上で周囲の脳組織を圧迫しているもの、聴力低下を来しているものです。

治療の方法は手術と放射線治療がありますがそれぞれ長所・短所があり、良しあしを論じることはできません。手術は腫瘍の縮小を目標とし、全摘できれば完治も期待でき、95%以上摘出で再発率は5%以下との報告もあります。しかし、手術難易度は「神の手」を持つ米デューク大学の福島孝徳先生いわく「脳外科手術の中で一、二を争う難易度」だそうです。腫瘍の周囲に重要な神経、特に顔面神経が走行しており、その機能を温存し腫瘍摘出するには高度な技術が必要で、その技術を得るには専門の医師の元での手術修練が必要です。最近は顔面神経まひを避けるために部分摘出を行い、残存腫瘍に放射線治療を行う施設も多いです。

放射線治療は頭を切らずに入院も二日で済みます。良いことずくめに聞こえますが、治療の目標は腫瘍の増大を制御することで、腫瘍が消失するわけではありません。良性腫瘍で増大しなければ生涯共存するのも一つの方法です。顔面神経まひが出現する確率も低く、生活上の支障も少なく済みます。しかし、腫瘍は消失しないので、三センチ以上の腫瘍や、周囲の脳への圧迫が強い腫瘍は放射線治療が困難であり、手術が必要になります。

以上のように、聴神経腫瘍には経過観察も含めさまざまな選択肢があり、腫瘍の大きさ・症状で治療法の組み合わせも変わり、聴神経腫瘍の治療を専門に行っている脳外科医を受診し、相談されて下さい。