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麻酔科医とは(2007年7月10日掲載)

高良到(南部徳洲会病院)

患者の生命維持に全力

救急、集中治療で活躍

「麻酔って何?」「どんなお医者さん?」

一般的に麻酔科は分かりにくい分野である。腹痛ならとりあえず消化器内科、転んで足の付け根が痛いのなら整形外科、胸が苦しいのなら循環器内科、息苦しいのなら呼吸器内科など各診療科の専門分野は一般的によく理解されている。しかし、麻酔科はどうだろう?

私が学生のころ、麻酔の講義は意味が分からず、ただ聞き流すだけのものだった。今日でも、麻酔科学を理解している医学生は、私が知る限り、ほとんどいない。それほど麻酔科はえたいの知れない診療科だと思う。

麻酔科医の一日は、こんな感じだ。まず、麻酔の準備から。手術の内容にもよるが、麻酔開始の三十分―一時間前から必要な機器の点検、麻酔薬の準備をし、手術中の緊急事態への対応をシミュレーションし、万全の体制を整える。いざ麻酔に臨めば、技術と集中力でもって患者の生命維持に全力を尽くす。

例えば、患者さんが手術室に入ってきたら、まず心電図、血圧計、パルスオキシメーター(体の中にどのくらい酸素があるか調べる装置)を装着し、体の状態をチェックする。それから点滴を行う。全身麻酔の場合、点滴や麻酔ガスで眠らせた後、筋肉が弛緩(しかん)し呼吸が弱くなっていく。そこで口から気管に管を入れ(挿管)、人工呼吸を開始する。これで手術に耐えられる状態となる。

手術が終わったら麻酔を覚ましていく。覚めてくると呼吸がしっかりできるようになる。もうろうとしている間に、管を抜いて呼吸ができているか確認する。そして意識がはっきりしてくる。患者さんに「もう終わりましたよ〜。痛みは大丈夫ですね?」などと声を掛ける。その後、翌日手術を受けられる患者さんの術前回診を行い、周到な麻酔計画を立てる。このころになると外はもう真っ暗で、一日があっという間に過ぎる。翌日、麻酔の影響が残っていないか診察をして記録を作成する。そしてまた一日が始まる。

麻酔科の専門性はさまざまな分野で活躍している。医師として基本的な技術である気道確保(人工的に息をさせるため気管に管を入れる技術)や人工呼吸管理、中心静脈カテーテル留置(血圧を維持するために必要となる場合が多い)、循環管理(血圧と心臓の管理)などは麻酔科研修で学んでいく。

この技術は救急医療では重要な技術のひとつとなる。さらに麻酔科医は、集中治療領域でも重要な部分を占めている。少し趣向を異にするが、ペインクリニックで活躍する麻酔科医もいる。

以上のように麻酔科の専門性とは、病気の診断や治療ではなく、主に生命維持のための技術といっていいだろう。

私は、最近になってようやく一般の方々に「麻酔とは…」と説明できるようになったと思う。それは、毎日悪戦苦闘しながら麻酔と向き合ってきたからこそ培われたのであろう。あっという間の十数年だった。