咳(せき)は誰でも経験するありふれた現象です。しかし、その原因は風邪といった軽いものから肺炎等の感染症、腫瘍(しゅよう)性疾患など重症病変に起因するものまで、さまざまな病態で起こります。おおかたは、原因が明らかな場合が多く二―三週間以内に自然軽快、あるいは病状の重篤さによっては医療機関を受診し原因が特定され三週間以内に軽快することが多いです。しかし、エックス線検査で異常がないにもかかわらず長引く(三週―二カ月以上)咳で悩まれている方も少なくありません。エックス線検査や肺機能検査で正常であるにもかかわらず、長期にわたり咳がなかなか治らない場合は、どのような病態が考えられるでしょうか。
三大原因として(1)副鼻腔(びくう)気管支症候群(2)咳ぜんそく(3)アトピー咳嗽(がいそう)―があります。さらに(4)感染後咳嗽(5)胃食道逆流症(6)ACE阻害薬(降圧剤の一種)による咳(7)心因性・習慣性咳―が一般的疾患として挙げられます。
副鼻腔気管支症候群は、風邪などを契機にした鼻炎や副鼻腔炎からの鼻水が、のどに流れて咳と痰(たん)を引き起こすもので、それ以外の症状として鼻汁や咳払いが見られます。治療は抗生剤(マクロライド系)と去痰剤などで行います。
咳ぜんそくは、就寝時や深夜あるいは早朝によく咳が強くなります。ぜんそくと名がつきますが、喘鳴(ぜいめい)は全くありません。症状は咳のみです。風邪やたばこ、気候、運動などにより悪化することが多く、アレルギーの関与により起こります。治療は、ぜんそくと同じで、気管支拡張剤やステロイド吸入剤により軽快します。
アトピー咳嗽の症状は、のどのかゆい感じ(イガイガ感)や痰の引っかかり感があり、咳はクーラーや会話、電話、たばこの煙、運動などで誘発されます。また就寝時から深夜、早朝、起床時に強い咳発作が見られ、女性、特に中年の女性に多くみられます。咳ぜんそくとは異なり気管支拡張剤は無効で、抗ヒスタミン剤やステロイド剤で咳が消失します。
感染後咳嗽は、ウイルスによる風邪あるいは百日咳菌に感染後、三週間以上咳が続くものですが、通常八週間以内に自然軽快します。
胃食道逆流症は胃酸が逆流して咳をきたすもので、胸やけがあれば診断がつきやすいのですが、無症状のこともあります。この場合は、咳をおこす他の疾患がないことを確認して診断することが一般的です。治療は胃薬(プロトンポンプ阻害薬)です。咳が軽快するまでには少なくとも一カ月、平均五―六カ月かかります。粘り強い治療を要します。
降圧剤の一種であるACE阻害剤は10―30%の頻度で咳を来します。降圧剤を服用していて咳が長引いている方は、主治医に一度相談してみてください。
長引く咳はさまざまな原因で起こります。原因も一つではなく、先に述べた原因が重なっている場合も少なくありません。またレントゲンに写らない気管支結核や気管支異物、がんなどが隠れていることもあります。咳が長引いている方は、呼吸器科で御相談されることをお勧めいたします。