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老年期のうつ病(2007年6月19日掲載)

近藤 毅(琉大医学部)

自ら自覚しづらい病気

周りで気付いてあげて

皆さんはひょっとして、「年を取れば誰でも愚痴っぽくなり気が弱るもの」「体の病気があるから少々元気がないのは当たり前」と思ってはいらっしゃらないでしょうか? 実は、お年寄りの方々は、長い間、体の病気で悩んでいたり、同年代の仲間の死に直面して気落ちしたり、役割や生きがいが感じられなくなったり、家族関係の中でも疎外感や孤独を感じていたり、それこそ、いつ「うつ病」になってもおかしくない状況に囲まれているのです。ですから、老年期の方はほかの世代と比べて、よりうつ病にかかりやすいといえます。いつもの年寄りの繰り言だろう、と軽く考えていると、お年寄りの「うつ病」を見逃してしまうかもしれません。

老年期のうつ病をこじらせると、頑固な体の症状へのとらわれ、先行きへの不安・悲観からくる焦燥感、過去の後悔や自分を責める気持ちなどが次第に強くなり、時にそれらは妄想と呼ばれる現実離れした考えに発展し、治療が長引いたり難しくなったりする場合もあります。疲れ、だるさ、何をやるのもおっくう、気分がふさぐなど、初期の体や気分の不調感を訴えている段階でしたら、治りが早いことが期待できるでしょう。

うつ病は自分ではなかなか自覚しづらい病気ですので、周囲の方々がどれだけ早めに気付いてあげられるかが重要となります。

特に注意すべきなのは、老年期のうつ病では自殺の危険性が高いということです。年齢を重ねていくにつれ、死は恐怖の対象というよりも身近な存在となっていき、そこに「うつ状態」が加わると、苦痛からの解放や現実に対するあきらめから、この年代では比較的簡単に自殺という手段を取りやすいようなのです。

「死にたい」などと言われれば、ご家族も気持ちが動揺するかもしれませんが、不安にかられて説教したり否定したりするのはかえって逆効果となります。死にたいほど何が苦しいのかを十分聞き出してあげて、「死んでほしくはない」という家族の率直な願いを伝えるとともに、解決方法の一つとして病院へ一緒に行こうと提案して安心させてあげてください。

ただ、説得は一筋縄ではいかず、頑固に受診を拒むこともあるかもしれません。沖縄在住の方を対象としたわれわれの調査において、高齢者は他世代と比べてうつ病に対する偏見の強さが目立ち、他世代よりも、「恥ずかしい」「迷惑になる」「逃げている」「弱い人間がなるもの」といったマイナスのイメージを持つ一方で、「自分の力で何とかなる」「治療には消極的である」という傾向がみられます。周りの方々は、感情的にならずに、寄り添うような気持ちで、ゆっくりと粘り強く受診を勧めてあげてください。同伴で受診いただければ、私たちが責任を持って当たります。

とはいっても、できればうつ病にならないよう予防することが大切です。体の病気は納得しながら治療を受けること、いつも誰かとつながりを持ち、一人にならないこと、役割も生きがいも楽しみもある生活をすることを日ごろから心掛けたいものです。