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先天性心疾患(2007年6月12日掲載)

我那覇 仁(南部医療センター・こども医療センター)

治療、1ヵ所に集約化

治療成績が画期的に躍進

先天性心疾患の発生頻度は百人の出生に対し約一人の割合です。沖縄県では一九七〇年代から、子どもの心臓病の治療が始まりました。当初は比較的手術手技が容易な心臓病を扱い、重症なチアノーゼ性心疾患や複雑心奇形に関しては十分な治療が行えず、本土の医療機関で手術を受けるため、家族の経済的負担は大きなものがありました。

八五年ごろから県立中部病院を中心に重症な先天性心疾患の治療が行えるようになりましたが、県立那覇病院や琉球大学にも手術が分散されていました。

昨年、沖縄県立南部医療センター・こども医療センターが開院し、全国で二十八番目になる「こども病院」が沖縄県にも設立されました。これにより沖縄県の先天性心疾患の治療が一カ所に集約化され、他の医療機関との連携を図ることになりました。さらに、重症の子どもを管理する小児集中治療室(PICU)が県内で初めて開設されました。わが国では新生児集中治療室(NICU)はほぼ整備されていますが、PICUの整備は遅れており、当院のPICU六床を加えても、全国でやっと百床を超えるようになったところです。

沖縄県の出生数は年間約一万六千人で、先天性心疾患は毎年約百六十人生まれます。これまで沖縄県では小児の心臓手術は年間約八十例でしたが、小児心臓血管外科や小児循環器科医の集中化により、こども医療センターでは昨年六月から今年五月までの一年間で小児心臓病手術例は百四十四例と過去最高の症例を手術しました。これは九州地区では三番目に多い症例数です。

治療成績も画期的に躍進し、手術のため本土に搬送する症例は、ほぼなくなりました。先天性心疾患にはさまざまな種類がありますが、特に新生児期(生後四週以内)に手術が必要な症例は完全大血管転位、総肺静脈還流異常、左心低形成症候群、単心室(複雑心奇形)など重篤な症例が多く、この年齢層の重症心疾患児をいかに救命できるかが、こども医療センターの大きな役割になります。

近年、先天性心疾患は妊娠中から胎児エコーによって診断されるようになりました。リスクの高い症例を母体搬送により当院の母体胎児集中治療室に入院させ、周産期から適切な準備や治療を行うことが可能です。診断、治療に関しても心エコーや心臓カテーテル検査のほか、3D―CTアンギオの導入により以前に比べ診断技術が向上しました。またコイル塞栓(そくせん)術やバルーン拡張術などの非侵襲的なカテーテル治療も行います。

地域社会的には宮古、八重山など離島における小児心臓病の定期検診によるサポートや、隣県の鹿児島県からの症例も受け入れています。また基地内の米国海軍病院からは、緊急を要する症例の治療など医療の協力も期待されています。少子化の中、沖縄県は、人口に占めるこどもの割合が18・4%で全国一です。胎児期から成人に至るまでの総合的な小児医療を目指すこども医療センターの役割は、今後ますます大きくなると思います。