咳(せき)は風邪をひくと誰でも経験するありふれた症状です。外から入ってくる細菌やウイルスから身を守るため必要で大切な防御反応のひとつです。とは言っても咳はつらいものですよね。今回は、痰(たん)もでないのに必要以上に咳が出て、体力を消耗するほど長く続く病気のお話をします。
「咳だけが止まらない」「冷たい空気を吸う、会話をすると咳込む」「ゼーゼーや息苦しさはないが、夜中から明け方に咳で目覚める」「かぜ薬や咳止めを飲んでも良くならない」などのつらい咳が三週間以上も続く場合、『咳ぜんそく』や『アトピー咳嗽(がいそう)』を考える必要があります。
これらの病気は、最近非常に増えてきており、多くは風邪に続いておこります。アレルギー体質のある方に多い病気ですが、すべてではありません。
『咳ぜんそく』は気管支ぜんそくの前の段階と考えられており、放置すると、将来30%が気管支ぜんそくになることが分かっています。一方『アトピー咳嗽』は、気管支ぜんそくにはなりません。両者は症状が同じなため、混同されがちです。
『咳ぜんそく』は気管支が狭くなることによって咳が生じます。通常のぜんそくの治療に使用する気管支拡張薬(気管支を広げる薬)は咳止めではありませんが、咳を軽くすることができます。
従って、三週間以上続く痰のない咳の場合には、レントゲンや採血などの検査で、気管支炎や肺がん、肺結核などの病気を否定したうえで、まず気管支拡張薬を投与します。
咳が良くなれば、『咳ぜんそく』と診断し、引き続き吸入ステロイド薬などを使ったぜんそくの治療を数カ月ほど続けてもらいます。それは、咳ぜんそくから気管支ぜんそくになるのを阻止するためです。
気管支拡張薬の効果がなければ、次に『アトピー咳嗽』を疑います。『アトピー咳嗽』は、気管支で咳をおこす神経反射が、過敏になって起こると考えられており、気管支拡張薬は効果を示しません。
そのかわりに、第一世代ヒスタミンH1受容体拮抗(きっこう)薬が使われ、咳が良くなれば『アトピー咳嗽』と診断できます。さらに、吸入ステロイド薬も効果があります。
『咳ぜんそく』や『アトピー咳嗽』のいずれの場合も、症状が重い場合は、短期間のステロイドの飲み薬を使用することがあります。この場合は、呼吸器科で診てもらう方が良いでしょう。
『咳ぜんそく』や『アトピー咳嗽』と考えがちな病気に、副鼻腔(びくう)炎(蓄膿(ちくのう)症)による副鼻腔気管支症候群があります。しかしその場合は痰を伴うことが多く、鼻汁がのどに流れる、咳払いなどの症状がみられます。
そのほか、かぜ症候群後咳嗽、成人百日咳、慢性咽喉(いんこう)炎、慢性気管支炎、びまん性細気管支炎などの気管支病、間質性肺炎、慢性心不全、逆流性食道炎なども同じ症状が現れることがあります。吸入ステロイド薬の効果がないときは、以上のような病気も考える必要があります。