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急性大動脈解離(2007年4月24日掲載)

上江洲 徹(南部徳洲会病院)

突然の激痛、死亡率も高い

血圧のコントロール大切

みなさんは急性大動脈解離という病気をご存じでしょうか? 最近は健康ブームのせいか、健康法や病気についての特集をよく目にしますが、急性大動脈解離はあまり見かけないように思います。

心臓から全身へ血液を送る一番大きな血管を大動脈といいます。大動脈の壁は、内側より内膜、中膜、外膜の三枚の膜で構成され、この内膜と中膜が急に裂けることにより、外膜と中膜との間に血液が流れこんで激痛が生じるのが急性大動脈解離です。主な症状は、前胸痛、背部痛、腰痛で、中には意識消失や腹痛を発症する場合もあります。

昨年の十二月にある芸能人がこの急性大動脈解離のため、都内の大学病院で十時間に及ぶ手術を受けたという報道がありましたが、この病気の治療は手術が必要な場合と、薬物治療の場合があります。心臓を出てすぐの大動脈に解離があれば手術(スタンフォードA型)、それ以外では薬物治療(スタンフォードB型)が第一の選択です。

この病気の厄介なところは、今まで健康であった人(実際は血圧が高い人がほとんど)が、突然、前述した症状が出現し救急車で病院へ搬送されるところです。

手術は緊急で行われることが多く、その理由は、スタンフォードA型の場合、心臓を包んでいる膜(心膜)の中に出血するため、心臓が圧迫されて血液を送り出せない状態になっており、最悪の場合は心停止を起こすことがあるためです。

二〇〇〇年にアメリカで発表された大規模な調査結果では、手術が必要なスタンフォードA型の手術後三十日以内の死亡率は26%で、A型であっても種々の理由で手術を行わずに薬物治療を行った場合は、発症三十日以内の死亡率が58%だったといいます。

進歩した現代の医療の中でも、まだまだ他の疾患に比べると死亡率の高い病気です。では急性大動脈解離を起こさないためにはどうすればよいのでしょうか? 一番は血圧のコントロールです。前述したようにほとんどの人が高血圧で治療中か、高血圧といわれていても放置している人に発症しています。中には遺伝性疾患で血圧と関係なく若年者に発症する場合もありますが、大部分は高血圧が原因です。

最高血圧で一四〇mmHg以上もしくは最低血圧で九〇mmHg以上が高血圧と定義され、これ以下に血圧をコントロールすることが治療目標です。最近では至適血圧は一二〇/八〇mmHgとされ、高齢者(七十歳以上)では一五〇〜一六〇/九〇mmHg未満とされています。

高血圧の治療は、急激に血圧を下げると脳梗塞(こうそく)などの合併症が起こることがあり、ある程度の期間をかけて徐々に下げることも大事で、安定したらその血圧を維持することが重要です。内服治療で血圧が安定したから、高血圧が治ったものと勘違いして自己中断する方がおりますが、その判断は必ず主治医と相談して決めてほしいものです。

みなさんもご自分の血圧を見直してみてはいかがでしょうか。