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医者は泣くのですか?(2007年3月13日掲載)

玉井 修(曙クリニック)

うれし涙や悔し涙も

人の痛み知り大きく成長

先日看護学校の面接試験官をやってきました。自分の将来をかけて試験に臨む受験生の顔はみんな必死で、硬くこわばった表情に少し上気したためかほおは赤くなっていました。

ある印象に残った受験生について書こうと思います。彼女が合格したかどうか私は知りません。しかし、たとえどのような生き方を今後選んだとしても、人の痛みを知った彼女はきっと素晴らしい人生を歩んでいく事だと思います。

彼女は一度社会に出て、社会人として責任ある仕事をしてから看護学校を受験していました。三十歳に手が届こうとしている彼女は看護学校受験に関してはだいぶ遠回りをしたことになります。

彼女に看護学校受験の動機を尋ねると、一瞬こわばった表情をした後、とつとつと自分の母親をがんで亡くした経験を話してくれました。短い面接の時間、緊張した場面であったため、悲しい思い出をむしろ淡々と話していた彼女が、少しちゅうちょしたようにその時出会った看護師さんの話をしてくれました。

「いつも明るく振る舞ってくれていた看護師さんが、自分の母の臨終の時に一緒に泣いてくれたのがうれしくて、看護師になろうと…」

そこまで言うのがやっとで、面接試験の緊張感の中必死にこらえていた彼女の目から涙が次々にあふれました。

自分自身で気を落ち着けようと一生懸命の彼女は、「すみません」と私に何度も謝りつつも、その時の思い出が胸をよぎるのか、なかなか涙が止まりませんでした。

私は彼女の気持ちを落ち着かせるために、少々別の話をして気持ちを切り替えさせてあげました。

面接試験の終わりには彼女は笑みも見せてくれ、私は安心しながら面接官としては少々過ぎた言葉をかけました。

「人の痛みを知るあなたにしかできない仕事がきっとある。少々回り道をした気がするかも知れないが、これまでのつらい思い出もすべてが君を守ってくれる、地道に良い仕事をしていきなさい。あなたの出会ったその素晴らしい看護師さんは人の痛みを知っていたからこそ、あなたの痛みに寄り添い、自然に泣けたのですよ」

試験場を出て行く彼女の顔には笑顔が戻り、扉がパタンと閉まった後、私は不覚にも流れそうになった涙をぬぐっておりました。

皆さん、お医者さんや看護師さんは泣かないとお思いですか? 彼ら、彼女らは泣くのですよ。人の病を治せた時にはうれし涙も、そして患者さんが亡くなった時には悔しくて、悲しくて、自分が情けなくて泣くのです。

試験官としての仕事を終えて、帰路につく私は何だか力がわいてくる感じがしていました。人の痛みを知って大きく成長する若い世代に大きな期待を抱きつつ、彼ら、彼女らとともに医療を担っていく喜びにあふれていました。