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胃瘻知ってますか(2007年3月6日掲載)

久志 一朗(那覇市立病院)

食事・服薬が容易に

30―40分の手術で造設

病気、外傷、高齢などで口から食事を摂取できない、または、うまく飲み込めない状態(嚥下(えんげ)障害)が長期間続く場合には、何らかの方法で栄養補給が必要になります。補給方法としては、点滴による経静脈栄養法と腸管に栄養を注入する経腸栄養法に大別されます。

現在では、点滴での長期間の栄養補給も可能ですが、生理的な経路での消化栄養吸収、免疫に及ぼす影響、残っている機能の活用、経済性などを考慮すると経腸栄養が有用といわれています。

経腸栄養法には、主に次の方法があります。以前から用いられてきた鼻から胃まで細い管を通し栄養を注入する経鼻胃管法と、腹壁から直接胃にチューブを通し栄養を注入する方法です。後者は「胃瘻(ろう)」と呼ばれ、両者とも胃内に栄養を注入するという点では違いはありません。

しかし、経鼻胃管法では、のどの違和感が強く、チューブで鼻やのどの粘膜を傷つけたり、たんがチューブに絡んで排出困難などの欠点があります。また、チューブ詰まりや汚染などで二〜三週間ごとの交換が必要になります(胃瘻チューブは一〜四カ月ごとの交換が必要)。さらに、鼻から胃までチューブを留置することが難しい症例もあり、胃ではなく、気管内にチューブの先端が留置されたままで栄養を注入すると、肺炎や窒息など重篤な合併症を引き起こします。

胃瘻造設は、チューブを留置するための小手術が必要という欠点はありますが、患者を抑制することが少なく、食事や内服薬の注入などが容易で介護、看護、医療の観点からも優れ、日本では、高齢化社会に伴い新規の胃瘻造設数は増加し年間十万件以上に達すると報告されています。

最近では、内視鏡(胃カメラ)で観察しながら行う経皮内視鏡的胃瘻造設術が主流です。造設法は、最初に内視鏡を挿入し胃を風船のように膨らませ、次に、腹壁と胃壁を糸で数針固定した後、一センチほどの穴を開け胃瘻チューブを通します。造設に要する時間は、準備も含め三十から四十分程度です。

適応については、通過障害がない事が大前提ですが、胃の手術後は造設困難な場合が多く、また、上腹部の手術の既往、胃内に潰瘍(かいよう)、腫瘍(しゅよう)が存在する場合にも慎重な検討が必要です。

胃瘻造設に伴う合併症として約3―5%に出血、誤穿刺(せんし)(腸管損傷、肝臓損傷など)、創部感染を認めています。合併症を生じた場合には、開腹手術が必要になることもありますが、安全に造設するために手技、チューブ類、穿刺器具などに工夫が凝らされています。

経皮内視鏡的胃瘻造設術は、主に外科、消化器内科で施行しています。比較的、体への負担の少ない手術・処置ですが、患者さんの全身状態や腹部手術の既往なども適応を決定する上で大切です。

胃瘻造設を希望される場合、まずは、主治医に相談してください。内視鏡で造設困難な場合には、開腹下での胃瘻造設術や小腸瘻造設術を行うこともあります。