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胸腔鏡下手術(2007年2月20日掲載)

上原 忠司(那覇市立病院)

カメラ挿入し遠隔操作

傷小さく痛みも少ない

住民検診や職場検診、人間ドックなどの胸部単純エックス線写真で、肺に影があるといわれてドキッとした経験はないでしょうか。

肺に影が見つかった場合、第一にしなければいけないことは、それが良性疾患なのか、あるいは肺がんなどの悪性疾患なのかを鑑別することです。もしそれが肺がんの影で、診断もつけずにほっておいたとしたら命取りになりかねません。

病院での二次検診では、まず胸部CT検査で、指摘された影が実際に肺内に存在する影なのかを確認します。CT検査でも明らかに影が指摘され、かつ腫瘍(しゅよう)性の病変が疑われた場合、良性か悪性かを診断するための精密検査へと進みます。

確定診断を得るためには画像所見だけでは不十分で、実際にその病変部から細胞や組織を採取し、顕微鏡検査で診断をつけなければなりません。まず痰(たん)の検査や気管支鏡を用いた内視鏡検査で細胞や組織を採取し、診断を得られるような所見がないか調べます。これらの方法でも診断が得られない場合には、胸(きょう)腔鏡(くうきょう)下手術による組織の採取が検討されます。

胸腔鏡下手術とは、胸腔鏡という細いカメラを胸腔内に挿入し、テレビモニターに映し出される画像を見ながら、遠隔操作で手術を行う方法で、一九九〇年代前半から普及し始めました。通常は全身麻酔で行いますが、二―三センチほどの小さな切開創三カ所から操作を行うため、傷も小さく、痛みも少ないので、皮膚を大きく切開する従来の開胸手術と比較して、手術による体への負担が少ないという点で優れています。

適応となる疾患は限られていますが、自然気胸や良性肺腫瘍、多汗症に対する手術では盛んに用いられる手技です。また比較的早期の肺がんでも、症例によっては六―八センチの小開胸創を併用した胸腔鏡補助下の手術が行われています。

診断を得られていない肺腫瘍の場合は肺がんとの鑑別が必要なケースが多々あり、専門医のいる病院では診断を目的とした胸腔鏡下手術が積極的に行われています。肺の末梢(まっしょう)側にできた小さな腫瘍であれば傷も小さくてすみ、また、腫瘍を完全に切除し得た場合、診断だけでなく治療を兼ねた手術ということになります。

胸腔鏡下手術で良性と診断され、笑顔で退院していった方、肺がんではあったが、診断が早くついたおかげで治療が受けられ、元気に日常生活を送っている方が数多くいます。一方で、以前から指摘されていたが、精密検査を受けずにいたため、病気が進行していたというケースもあります。

ご存じのように一九八一年以降、わが国の死因の第一位を「がん」が占めています。現在、その年間の死亡者数は三十万人を超え、実に三分の一の方ががんで亡くなっています。なかでも肺がんは、がん死亡者数の第一位です。がん診療の基本は早期発見、早期治療です。したがって、肺に影があると指摘された方は、病院で早めに精密検査を受け、肺がんとの鑑別が必要かどうか呼吸器の専門医と相談することをお勧めします。