アイボリー色の機体に鮮やかな赤十字のマーク、たった一人のスイス人傷病者を本国に連れ帰るため、はるばるチューリヒから飛来し北九州空港に降り立ったスイス航空救助隊(REGA)の医療専用小型ジェット機のことは、今も鮮やかに記憶に残る。今から十年以上も前のことで、当時私は北九州の病院に勤務していた。患者に随行し、その「空飛ぶICU(集中治療室)」でチューリヒまで赴き、自分の目でREGAの活動を見ることができたのは貴重な体験だった。
スイスの国土は九州とほぼ同じ大きさだが、その中に十三の医療用ヘリ基地が配置されていて、国内のどこで何があっても十五分以内に医師が同乗したヘリが駆けつけることができる。一基地あたりの出動は年間六百〜千回。登録し年会費を納めることで利用でき、ヘリ利用時の自己負担はない。国民の約八割が加入している。医療専用機が日本まで飛んできただけでもびっくりしたが、それはむしろREGAの活動としては従の方で、主はヘリを駆使した医療用搬送システムだ。ヘリは滑走路を必要とせず時速二百キロで飛行できるため、医療には非常に有用な手段なのである。
当時の日本の状況を見ると、ヘリ保有数は世界第三位なのに、医療活用となると、出動件数のみを見ても、全国でもスイスの十分の一にもなっていない。国土の違いはあるにせよ、これは一体どうしたことかと強い疑念を抱いたのが私のヘリ活用への取り組みの原点である。
以来、市の消防ヘリ、県の防災ヘリ、時には民間ヘリをチャーターするなどしてドクターカーで往復三時間を要していた医療過疎地に対して、ヘリ活用のさまざまな試みをしてきた。しかし、行政のヘリは主任務もあり手続きが煩雑で主体的に飛ばすことができず、チャーターには巨額の費用が必要で、どうしても恒常的なシステムが構築できないままだった。
縁あって四年前に当院に赴任し、いくつかの事業に携わらせて頂いたが、その一つが私にとってライフワークとも言える医療用ヘリ事業である。「有人離島を多く有する沖縄県には自衛隊・海上保安庁のみに依存した現行のシステムだけではなく、医療専用ヘリが絶対に必要だ、ぜひシステムを作ってほしい」と当院理事長から要請され、二〇〇五年七月に発足させたのがヘリを用いた浦添総合病院急患搬送システムU―PITSである。苦労は多かったが、現在は読谷の海辺の一角に基地を構え、百件以上の急患を含め、総計百六十件の医療搬送を実施することができた。
U―PITSは午前九時から午後五時まで三百六十五日体制で運航しており、要請は医療機関もしくは消防からホットラインで受け、緊急時には数分で発進する。搬送先の医療機関は要望や病状に応じて決めるようにしている。
現在は看護師が常駐しているが、本年四月からは医師も常駐体制にし、機体も世界標準の医療専用機を導入する予定だ。まだまだカバーできない地域もあるが、費用面でも県行政の支援を仰ぎ、離島・医療過疎地をはじめ、広く県民に裨益(ひえき)するシステムを構築していきたいと期している。