人の体には多くの血液が流れています。その血液を体の隅々に流すための管が血管です。その血管にもいろんな病気があり、その一つに「下肢静脈瘤(りゅう)」があります。下肢や腕の静脈には「弁」があります(図1)。
静脈が心臓まで血液を運ぶには、この弁と下肢や腕の筋肉の運動が大切な役割を果たしています。筋肉の運動が静脈をもみあげるポンプの役割、弁は血液の逆流を防止する役割があり、この共同作業がスムーズな静脈の流れを生み出します。
下肢静脈瘤はこの「弁」が壊れ、静脈が瘤(コブ)の状態になり、血液が逆流するようになる病気です(図2)。この弁が壊れるのは静脈血管の内圧が上がる状態が続くことが大きな原因で、妊娠や出産、肥満、長時間の立ち仕事、さらに遺伝的素因もあります。
約八割の患者が女性で、複数回の妊娠・出産後に徐々に目立ってくるケースが多いようです。症状としては、見た目の悪さ、下肢のだるさ、ふくらはぎのけいれん、かゆみ、皮膚の変色のほか、静脈瘤内に血栓ができたり、スネの内側の皮膚に穴があいたりします。そのほか、極めてまれですが、肺塞栓(そくせん)(肺の血管に血栓が詰まる疾患)を起こすことがあるとも言われています。
治療は基本的に手術が必要で、代表的な手術は静脈抜去術です。腰椎(ようつい)麻酔または全身麻酔をして下肢に数カ所、約一―二センチの皮膚切開を加え、足首近くの静脈から鼠径(そけい)部(下肢の付け根)までの静脈瘤を引き抜く手術で、一般的に三日前後の入院が必要になります。この方法は今のところ、静脈瘤を治すには最も確実な方法といえます。
最近では、局所麻酔でもできるように工夫された方法もあります。悪化を防止する目的で、鼠径部やひざの裏で静脈を縛る高位結紮(けっさつ)術です。局所麻酔なので終了後帰宅できますが、静脈瘤は残るため、硬化療法を追加することがあります。硬化療法とは静脈瘤に血液を凝固させる薬剤を注入し、二―三日間圧迫包帯を巻くことで、血栓でつぶしてしまう方法です。
そのほか、最近ではレーザー治療が行われていますが、健康保険の適用にはなっていません。いずれの治療が適しているかは、静脈瘤の状態や生活環境、年齢、本人の希望などを参考に患者と話し合いながら決めていきます。
静脈瘤は予防や悪化防止も大切です。その一つとして弾力ストッキングの着用で下肢全体を締める方法があります。妊婦、立ち仕事、肥満の方にはお勧めできますが、沖縄の夏は長く季節的に常に着用するのはきついかもしれません。
そこで日常生活における予防として、横になって行う自転車こぎ運動、立っているときは背伸びとかかと立ちの繰り返し運動がお勧めです。そうすることで、筋肉運動によるポンプ作用が働き、血液の流れがスムーズになり、静脈弁への内圧が減ることで弁が壊れるのを防止できます。
肥満の方は静脈瘤だけでなく生活習慣病予防のためにもぜひダイエットしましょう。ほとんどの疾患と同じで、下肢静脈瘤も早めの治療が効果的といえます。