近年の医療は、病気を治すだけでなく、患者に優しい治療、負担の少ない治療が求められています。産婦人科領域でも、手術においては、おなかを大きく切る従来の「開腹手術」に替わって、「腹腔(ふくくう)鏡下手術」(おなかの内視鏡手術)が主流となりつつあります。
その手術の方法は、おなかを〇・五センチから一センチの長さで三―四カ所切開し、内視鏡と細長い棒のような器具を入れて、おなかの中で病気の部分を切ったり、縫ったりします。
通常、退院は手術後三日目であり、術後一週間で手術前とほぼ同じ生活様式に戻れます。
婦人科における腹腔鏡下手術の対象となる疾患は、一般的に悪性腫瘍(しゅよう)(いわゆるがん)以外の病気であり、良性卵巣腫瘍、子宮筋腫、子宮外妊娠、不妊症など多岐にわたります。
この手術は、器具の改良や技術の向上により、以前は比較的困難とされていた頻回の開腹手術既往例、かなりの肥満の方、高齢者、妊娠中の卵巣腫瘍、出血が多めの子宮外妊娠などにも施行できるようになってきています。
良性卵巣腫瘍においては、かなり大きくても腹腔鏡下手術を行えます。また、患者の希望に応じて正常卵巣の部分は残し、腫瘍だけ切除することもできます。
子宮筋腫はたまたま見つかることも多く、具合が悪いのでなければ治療の必要はありません。しかし、ある程度大きい場合は治療が必要となることが多いようです。
筋腫がかなり大きい場合、開腹手術での手術は比較的容易ですが、腹腔鏡下手術ではかなり難しくなってしまいます。
それでは、筋腫のサイズが大きくなる前に腹腔鏡下手術をしてしまえばいいのかというと、サイズが大きくならなければ手術の必要はないというジレンマがあります。
不妊症においては、通院治療で妊娠成立しないカップルで、男性に明らかな異常がない場合、腹腔鏡の対象となります。卵管や卵巣がくっついていればそこをはがす、子宮内膜症があればそれを電気メスで処理する、卵管がつまっていれば通るようにする、おなかの中を多量の生理食塩水で洗浄するなどして治療します。おなかの状況にもよりますが、手術後三―四割のカップルに妊娠が成立します。
腹腔鏡下手術は、従来の開腹手術と比較して、手技が困難である、手術時間が長くなる、腹腔鏡下手術特有の合併症があるなど、劣る面もあります。また、最近、マスコミで腹腔鏡下手術の事故や不手際が大きく取り上げられ、その安全性に疑問が残っているようです。
しかし多くの腹腔鏡下手術は安全に行われているのが現状であり、担当医と相談の上、本術式も選択肢の一つとして検討することをお勧めします。