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長寿の島はどこへ行く(2006年9月26日掲載)

深町 雄三(ちゅら海クリニック)

肥満→メタボリック→透析への道

本来の沖縄食への回帰を

私が沖縄へ来てもうすぐ二年になろうとしています。妻が「ちゅらさん」の大ファンだったこともあり、北部地区医師会へお世話になることとなりました。もともと、私の診療の中心は内分泌と糖尿病で糖尿病患者の方が腎不全に陥る例を数多く見、最初から最後まで付き合うならば透析医療は避けては通れない道という訳で透析をはじめとする腎疾患に深くかかわるようになりました。

沖縄で糖尿病の診療に当たってまず驚いたことはとんでもない肥満が多いことです。体容量指数(BMI)(体重身長の二乗)が理想では22ですが30を超える方がざらにいます。最近、新聞などでもよく見かけるようになった言葉で「メタボリック・シンドローム」というものがあります。いろんな生活習慣病を併せ持つ、「シンドロームX」やら「死の四重奏」やらの概念が整理され統一された考え方ですが、肥満を基礎として高血圧、糖代謝異常、脂質代謝異常を来す症候群で心疾患や脳血管障害を起こしやすく生命にかかわる症候群です。

日本での診断基準は二〇〇五年の日本内科学会で発表されました。このメタボリック・シンドロームが異様に多いのです。以前から琉球大学医学部からは「沖縄ではメタボリック・シンドロームが多い」との警鐘が鳴らされていましたが、何よりも日本一の長寿の島だから、肥満があっても心配はいらないサアーっと軽く考えられていたのですが、実情は悲惨なものです。四十歳になる前に糖尿病は出るは心筋梗塞(こうそく)になるは、果ては腎機能が低下して透析が必要になるは…。

男性の平均余命が一挙に一位から二十六位へ落ちた26ショックという言葉は沖縄に来てからはじめて知りましたが、日常診療を行っている立場で言うと当たり前どころか平均余命がまだ最下位でないだけたいしたもんだと思います。沖縄の透析患者数は人口当たり日本平均の一・四倍です。しかし、透析導入の原因となる腎疾患の患者比率は日本平均と同等です。この差はどこでついているのでしょう? それが「糖尿病」です。

全国的にも糖尿病による透析導入は30%を超え、導入原因の一位となっていますが、沖縄では50%、あるいはそれ以上だとされています。もともと日本人の遺伝子は肥満への防御が弱く、糖尿病、高脂血症、高血圧症、高尿酸血症などの生活習慣病を発現しやすいと考えられています。

極端に欧米化した食生活はそろそろ考え直さないと「長寿の島」は過去の幻想になろうとしています。子供のころに見た「ひょっこりひょうたん島」のようにどことも知れない海へさまよいだしています。いくらゴーヤーが健康食だとしても油でいためてポークを入れてでは高カロリーになってしまいます。本来の沖縄の郷土料理は身の回りで手に入る食材を上手に調理した低カロリーなものです。アメリカ世の悪い遺産はそろそろ脱却しないと今の子供たちが大人になるころは病気で苦しむ人ばかりになってしまいます。長寿の島はどこへ行くのでしょう?