読者の皆さまの中にもステロイド薬を内服・吸入されている方がいると思われます。ステロイド薬は内科・皮膚科・小児科をはじめとして、ほとんどの科で使われています。内科では膠原病(こうげんびょう)(関節リウマチ、SLE等)、間質性肺炎、ネフローゼ症候群、気管支喘(ぜん)息(そく)などでよく使われます。
しかし一方では患者さんからホルモン剤は怖い薬なので使いたくないと言われることもあります。なぜでしょうか? それは恐らく、ステロイド薬が多彩な作用をもち、優れた治療効果を示す半面、長期使用により治療目的以外の作用が副作用として現れてくる場合があることが原因ではないかと思われます。これが「ステロイド薬はもろ刃の剣」と称せられるゆえんです。
ステロイド薬はヒトの副腎から分泌されるステロイドホルモンを基に合成された薬で、(1)炎症を抑える(2)免疫反応を抑える(3)アレルギー反応を抑える|作用を持っています。その効果はほかの薬にはないほど強力です。種々の病気の治療には、治療目的以外の作用を取り除いたステロイド薬が使えると良いのですが、現在はまだありません。また治療に使う量は、普通に副腎から分泌されているホルモン量よりも多くの量を必要とします。局所的あるいは短期間の投与では副作用が問題となることはほとんどありませんが、長期全身投与ではホルモン過剰状態による副作用が現れないように工夫することが必要となります。十分な治療効果を得、副作用を予防するためには、(1)十分な量で開始し、必要最低量で維持する(2)局所的な病気は局所に投与すること|となります。
長期全身投与が必要な場合には、生理的な分泌パターンに合わせ、投与時間・投与間隔を工夫したり、投与量を徐々に減らし必要最低維持量を設定する工夫がされます。それでもステロイド薬の長期投与中に、糖・タンパク・骨代謝への影響により、糖尿病、骨(こつ)粗(そ)鬆(しょう)症(しょう)、消化性潰瘍(かいよう)、感染などを併発することがあります。それらの予防に糖尿病薬、坑潰瘍剤、ビタミンD製剤、ビスフォスフオネート製剤などが投与されることがあります。
局所投与法としては、気管支喘息へのステロイド吸入、関節疾患への関節内注入、皮膚疾患への外用剤、眼科での点眼薬の使用などにより、十分な効果と副作用の軽減が図られています。
ステロイド薬は使い方に工夫を必要としますが、他の薬にはない劇的な効果を持つ薬です。最近では投与法もより改善され、副作用に対する予防法、合併症に対する治療法も進歩しています。以前に比べるとより安全に使えるようになっております。ステロイド薬の治療を受けるに際して、あまり怖がりすぎず、病気の特性、ステロイド薬の必要性、服用方法をよく理解していただくことが大切です。
治療中は病状の変化・新たな症状の出現に注意しながら、絶えず主治医と緊密に連絡を取り、決して自己判断で治療を中断しないことが肝要です。
ステロイド薬の治療の成功には医師・患者さん双方の緊密な協力が必要です。