以前テレビで放映されたドラマの「救命病棟24時」をごらんになった方は多いと思います。ある回のことですが江口洋介ふんする救命救急医の進藤先生が交通事故の患者さんの救命蘇生(そせい)を施していました。救急疾患を疑って撮ったその患者さんのレントゲンを見て「これは!」と急に手を止め、予期せぬ肺がんを発見したシーンがあったと思います。私も職業柄、テレビにレントゲンが出てくると病変を見つけてやろうと注意して見る癖があります。しかし数秒のシーンだったので私が異常を見つけられずにいると、そばで見ていた妻は私に冷たい視線を送りつつ「進藤先生かっこいい…」。
レントゲンは医者の経験や知識をもとに細かい分析が加えられ、多くの肺がんが発見されます。しかし、肺がんが小さい場合や骨や心臓に肺がんが重なっている場合、それらが死角となって見落とすこともあります。その弱点を補う検査がCT(コンピューター断層撮影)です。CTは体を輪切り状に撮影するため、何枚もの横断像の情報が得られます。死角がなくなり、肺全体を見ることができるのでレントゲンで見落とされる肺がんでも見つけることが可能です。
以前、私が築地のがんセンター中央病院で研修をしていた時、術前検討会である先生が「これはやぶにらみで見つかった症例です」と症例を提示していました。その意味が分からず上司に尋ねたところ「レントゲンで肺がんが疑われCTを撮影しても疑った場所には異常はなく、違う場所でたまたま見つかる肺がんのこと」と説明を受けました。レントゲンでは肋軟骨の石灰化や血管の重なりが一見肺がんのように見えることがしばしばあります。その症例も肋軟骨の石灰化を異常として判断されたようです。経験を積んだ医者ならそれを肋軟骨の石灰化だから大丈夫でしょうと終わってしまっていたかもしれません。しかし、最初にレントゲンを見た先生が、見慣れなかったその所見を肺がんだと疑ったため、CT検査まで行われ別の場所に小さな肺がんが発見されたのです。その患者さんは幸いにも早期に見つかったため無事手術で治療されました。このようなやぶにらみで肺がんが見つかるケースは決して珍しくはなく、レントゲン診断の難しさやCTの有用性を痛感しました。
レントゲンで肺がんが見つけにくいのは、死角の存在や病変が小さいことなどだけが原因ではありません。一般に肺がんは中身ががん細胞で詰まっており、レントゲンやCTでは塊の様にくっきり見えます。ところが、画像診断の進歩により淡い雲のような「すりガラス様陰影」と表現されるがんがCTで多く見つかるようになってきました。この種の肺がんはレントゲンではほとんどが描出されませんので発見はCTでないと不可能と言っても過言ではありません。
近年、本県も含め全国でCT検診が広まってきており、肺ドックもいろいろな施設で行われるようになりました。肺がんと喫煙との関連はよく知られていますがなかなか禁煙できない方はぜひCT検査を受けてみてはいかがでしょうか。