沖縄県は観光立県を掲げており、二〇〇五年の入域観光客は五百五十万人に達し観光収入は四千十五億円と県民総所得の11%を占めております。〇六年には、入域観光客数は五百六十五万人、観光収入は四千三百五十一億円に達すると予測されています。
観光客に沖縄を安心して楽しんでもらうためには、沖縄の風土をいつまでも風光明美に保つほか、亜熱帯気候のもとで発生する感染症が少なくなるように環境衛生を良好に保持することが重要なこととなります。また県民自身が日ごろから感染症にかからないように行動することも重要です。
那覇検疫所では、将来の観光産業を担う若い人たちが感染症予防策を実行できるように、海外に修学旅行をする県立高校の生徒を対象に「旅行医学出前講座」を、〇五年から実施しております。彼らは将来、留学や仕事などの目的で度々海外に旅行する機会があることが予想され、国際人としての活躍が期待されます。
良好な衛生状態の保たれている日本で成長した若者が、日本に常在しない感染症の流行地域で安全に過ごすためのノウハウを身に付けることは非常に重要です。日ごろから「自分の健康は自分で守る」という意識で行動することが、沖縄をより安全な観光地として発展させていくことに貢献できると期待されます。
「旅行医学出前講座」ではまず、入国者に対し空港や海港で感染症を監視している検疫所の仕事を紹介し、理解と協力をお願いしております。第二に感染症とはどういう病気かということ、知識だけでなく、手洗いやうがいなどの保健・衛生行動を習慣化することが重要であるといった感染症予防の原則を教示しております。第三に旅行前・旅行中・旅行後の一般的な注意と旅行先ごとの個別の注意(旅行医学)を教えております。
〇五年には六校で講座を実施しました。講座後のアンケートでは、約80%の生徒に講座内容の大部分が理解されていることが判明しましたが、感染症とその予防策について正しく理解していた生徒は40%以下で、説明方法を改善する必要があることが判明しました。
帰国後のアンケートでは、旅行中に体調を崩した生徒が約40%いましたが、そのすべてが軽症でした。体調を崩した生徒の中で、教師等に報告・連絡・相談した生徒は約25%(全体の10%)に留まっており、また、そのほとんどは持参の常備薬を服薬して症状を軽快しておりました。
旅行に際し、実際に望ましく行動することができた生徒は20―50%で、「旅行医学出前講座」が若い人たちに健康増進のための行動変容を引き出すことが可能であると確信しました。(詳細は那覇検疫所のホームページhttp://www1.odn.ne.jp/〜aao42060/を御覧ください。)
「鉄を打つなら熱いうちに」ということが再確認され、継続して「旅行医学出前講座」を実施することの将来にわたる効果を大いに期待しております。