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骨粗しょう症での骨折(2006年6月13日掲載)

大湾 一郎(琉大医学部付属病院)

転倒しない体づくりを

骨密度知ることも大切

現在日本で寝たきりの生活を送っている人は、百二十万人を超えるといわれています。その原因の約半分は脳卒中と骨折ですが、最近骨折の割合が少しずつ増えてきました。高齢化社会でお年寄りが増えたこと、足腰が弱く、転びやすくなったことが原因です。

加齢により骨が弱くなると、ちょっとした転倒で太ももの付け根や背骨の骨折を生じます。このため負担の大きい手術や長期間の入院が必要になってしまい、次第に元気がなくなることが少なくありません。太ももの付け根の骨折を股(こ)関節骨折と呼びますが、日本では八十歳から八十四歳で百人に一人、八十五歳以上では五十人に一人がこの骨折を受傷しています。

沖縄のお年寄りはどうでしょうか。一昨年に私たちが調査した結果では、一年間に千三百四十三人の方がこの骨折を受傷していました。十五年前の調査では五百二人でしたので、二・六倍に増加しています。沖縄のお年寄りは元気という印象があるので、ちょっと意外かもしれませんが、股関節骨折の発生率は全国平均よりも高くなっています。皆さんの周りにも、この骨折を経験した方がいらっしゃるのではないでしょうか。ベッド上でつらそうに「アガヨー」と痛がる高齢者を目の前にすると、治療をして早く起こしてあげたいという気持ちと、骨折予防の大切さを痛感します。

骨折予防の取り組みは、大きく二つに分けられます。一つは転倒しない体と環境づくり、もう一つは転倒しても骨折しない丈夫な骨づくりです。高齢者は、筋力が衰えてバランス能力も低下しています。中・高年から筋力トレーニングを行うと、老化による筋力の低下が少なくなります。柔軟体操で関節の動きを柔らかく保ち、平均台の上を歩くようにつぎ足で歩行したり、片足立ちでバランス感覚を養います。

骨折の受傷場所ですが、七割の方は屋内で受傷していました。トイレに行くときやベッドの周囲、風呂場での骨折が多いようです。知り尽くした家の中でも、わずかな段差につまずいたり、電気コードに足を引っかけたりと、転倒する危険が常に潜んでいます。廊下や階段には手すりをつけ、マットには滑り止めを張り、バリアフリーにするなどの配慮が必要です。

多くの方は、自分の血圧の値をご存じだと思います。では、骨密度の値を知っている方はどれぐらいいらっしゃるでしょうか。二十|三十歳代の人の骨密度を100%としたとき、70%以下に低下した状態を骨粗(しょう)症と診断しています。

骨粗しょう症になると骨折の危険が二倍以上に増えるので、自分の骨密度を知ることはとても大切です。もちろん、カルシウムを補給したり、運動したりすることも大切ですが、血圧の値を知らなければ高血圧の治療ができないように、骨密度の値を知らなければ骨粗しょう症の治療を受けることができません。最近では、骨密度を増加させ、骨折を予防する良いお薬が使用できるようになりました。

骨粗しょう症は、閉経後の女性に多い病気です。若いときと比べて、身長が二センチ以上低下した人の八割は、骨粗しょう症になっているともいわれています。股関節骨折を受傷してつらい思いをしないように、五十歳を過ぎたら周りの人を誘って、年に一回は骨密度検診を受けてください。