アジア人の身体的特徴は体毛が薄いことですが、日本人、とりわけ沖縄の男性は体毛が濃く、アジア人としては特異です。最近は男性の濃い体毛を気にする若者も増え、エステや永久脱毛がはやっています。
一方、女性の体毛が濃い場合は一般に多毛症と呼ばれます。これは男性型のヒゲや、下肢に濃くて太い体毛(剛毛)が目立つことを言います。ニキビの増加や生理の乱れを合併し、いわゆる固太りになり、糖尿病や高血圧症を合併することもあります。強力な男性ホルモンであるテストステロンや、弱い男性ホルモンであるDHEAなどの増加が多毛症の原因となります。
最近、多毛症の女性が多くなっている印象があります。男性ホルモンの増加は、主に副腎または卵巣の異常に由来します。副腎や卵巣からの過剰のDHEAが体内でより強い作用のテストステロンに変化するか、卵巣から直接テストステロンが過剰に分泌されることで起こります。卵巣癌(がん)や副腎癌がこれらを過剰に分泌することもありますが、極めてまれです。
もっと頻度の高い疾患として多嚢胞性卵巣(たのうほうせいらんそう)症候群と遅発性副腎酵素欠損症の二つがあります。この二つは別の病気と思われていましたが、最近では両者の区別を付けずに、一連の疾患群として考えるようになりました。つまり、卵巣の変化が起こっても起こらなくても、副腎や卵巣で男性ホルモンが過剰に作られることで多毛症などの症状が出るという認識です。
最近の研究で、多毛症は生活習慣病の一つであることがわかってきました。運動不足や過食に由来する高血圧、糖尿病、肥満、高脂血症、心臓病などの疾患群と同じ位置づけになる訳です。
農耕や狩猟採集の時代には、食物を有効に利用し、塩分を体内に保持し、出血をすぐに止められる遺伝的素質のある人々が生き残ってきました。しかし、飽食の現代社会では、これらの素質は糖尿病、高血圧、血栓症、多毛症を増やす原因となってしまいます。多毛症の患者さんには不妊症の方も少なくありません。昔は多くの女性が十代で妊娠・出産をしたため、二十歳以降に発症しやすくなるこの病気の影響を受けにくかったものと推測されます。
多毛症の診断のためには、副腎や卵巣のMRI(磁気共鳴画像装置)やCT(コンピューター断層撮影)などの画像診断、ホルモン負荷検査などが必要ですが、数日間の短期入院で済みます。エステや永久脱毛などに頼るのも良いのですが、まずは多毛症に詳しい内科や婦人科を受診されることです。
多毛症の治療は生活習慣病の一つとして総合的に行う必要があります。遺伝的素質は変えられませんので、不規則な生活習慣を見直し、食事療法や運動療法を行います。これらで解決しない時には、内服治療が必要です。内服薬は数種類あり、患者さん個人の病状に合わせて選択できます。効果の期待できる新薬もあります。
一人で悩まずに一度医療機関で受診することをお勧めします。