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内視鏡治療最前線(2006年5月16日掲載)

仲地 紀哉(那覇市立病院)

治療成績で注目のESD

粘膜内に限定、早期発見を

現代社会における時代の変化はめまぐるしいもので、医療においても日々新しい知見や技術が報告されています。早期胃がん治療などで最先端治療として注目されている内視鏡治療について紹介いたします。

通常の消化管のがんは粘膜から発生します。粘膜の下には粘膜下層という薄い層があり、その下に筋肉の層があります。粘膜から発生したがんは周囲へ広がるわけですが、内視鏡的に切除可能なのは粘膜下層を境にして上部(粘膜の方)ですので、粘膜内にとどまるがんは内視鏡的に切除可能ということになります。それより進行してしまった場合は基本的に内視鏡では治療不可能ですので手術が必要になります。

私たち消化器内視鏡医は「粘膜内にとどまる」という、ごく限られた病気を治すことができるわけですが、今までの治療法ではその中でも、さらに限られた病気だけしか治すことができませんでした。以前からの主流である内視鏡的粘膜切除術(以下EMR)は、輪状になった電気メスで縛って焼き切る方法を採ります。その方法では一回で切除できる大きさに限度がある上、切除困難な部位もあり、実際のところは「粘膜内にとどまる」病気の一部しか治療できないというのが現状でした。

最近注目されている治療法に、内視鏡的粘膜下層剥離(はくり)術(以下ESD)というものがあります。EMRは縛って切る方法を採りますが、ESDでは内視鏡の先から種々の電気メスを出し、それらを駆使して病変をはがし切る方法のため、粘膜内病変であれば理論的にはどんなに大きな範囲でも切除可能となります。

とはいうものの、ESDの手技は熟練を要し、開発当初は偶発症が多いとされ、一般的な治療法として普及する妨げになっていました。しかし、普及しつつある今では偶発症はEMRとさほど変わらなくなっています。

ESDの良いところは(1)治療適応が広がる可能性を持っていること(2)従来のEMRと比べ、一括で病変を切除できるため再発率が低いこと(3)手術と比べて体への負担が小さいこと(4)標準適応範囲内の病変において手術と同等の治療成績を示していること―などがあります。

当初は治療成績の良さが注目されていましたが、最近では正確な病理診断が可能という点で再評価されています。内視鏡治療の信頼度が上がることで、本来は必要ないかもしれない追加手術や術後の検査を避けることができます。さらに治療の過小評価による思いがけない再発を防ぐことができたりします。ESDは胃の病気に対する治療法として開発されてきたのですが、今では食道や大腸等へも応用されつつあります。

しかし、医療技術が進んだとはいえ、内視鏡治療が可能な病変というのは、あくまで粘膜内がんに限られているため、早期発見が不可欠であることは言うまでもありません。早期がんは無症状であることが多く、検診や人間ドック等の定期検査をお勧めいたします。