沖縄県医師会 > 健康の話 > うちなー健康歳時記 > うちなー健康歳時記2006年掲載分 > アスベスト暴露と喫煙

アスベスト暴露と喫煙(2006年4月25日掲載)

久場 睦夫(国立病院機構沖縄病院)

肺癌死亡率53倍にも

早期治療で経過良好に

最近、アスベストによる健康被害が大きな社会的問題となっています。アスベストは、耐熱性、弾力性などの特性から、エジプトのミイラの梱包(こんぽう)に使用されるなど、古代から今日まで広く身近に使用されてきた鉱物です。しかし近年その毒性が知られるにつれ世界各国で規制がかかり、わが国では二〇〇四年、原則全面禁止となりました。

しかし、アスベストの被害は数年以上の時を経て出現することから、中皮腫(ちゅうひしゅ)や肺癌(はいがん)の発生は今後十〜二十年は増え続けると予測されています。アスベスト暴露の可能性としては、石綿セメント管・絶縁テープの製造、耐火建築物にかかわるアスベストの吹きつけ作業・補修・解体や電気工事・配管工事、ボイラーやパイプへの断熱材の取り付けや取り外し作業、船の修繕や自動車修理、その他アスベスト材料の運搬作業などへの従事があげられます。こういった関係の職業や環境下にある、あるいはあった方々はアスベストに関する健康診断をお勧めいたします。

アスベストは毛髪の約二百分の一の太さであり、これを口や鼻から吸入することによりさまざまな疾患を引き起こします。従って障害は、そのほとんどが呼吸器に発症すると考えて間違いありません。疾患としては(1)石綿肺(せきめんはい)(2)胸膜(きょうまく)プラーク(3)石綿胸水(せきめんきょうすい)(4)瀰慢性胸膜肥厚(びまんせいきょうまくひこう)(5)円形無気肺(6)肺癌(7)中皮腫があげられます。以上の七つの疾患のうち、(7)中皮腫は、まれに腹膜、心臓、睾丸(こうがん)にも発生しますが、ほとんどが胸膜から発生します。

症状としては、いずれの疾患も咳(せき)や胸痛、息切れなどですが、症状が出る前に発見する事が大切です。早期の病変を発見することで、より効果的な対処ができ、その後の健康維持ができます。

(1)〜(5)は良性疾患で、ほとんどの場合、治療を要しません。特に問題となる疾患は(6)肺癌と(7)中皮腫です。両者の治療は進行度により手術、化学療法、放射線療法等があります。いずれも早期に発見するほど、手術を含めた集学的治療で経過は良好となります。そのためにも、アスベスト暴露が考えられる方には、胸部レントゲンやCTによる早めの健診をお勧めいたします。

さて、アスベストに暴露すると肺癌による死亡率が高まりますが、それに喫煙が加わることで危険性はさらに増します。

肺癌による死亡率を暴露のない非喫煙者と比較すると、アスベスト暴露のみの場合は五・一七倍、アスベスト暴露のない喫煙者は一〇・八五倍、そしてアスベスト暴露のある喫煙者の場合は、実に五三・二四倍となっています。

アスベスト暴露のある喫煙者は、五十倍以上も肺癌死亡の危険性が高い事から、喫煙はぜひやめるべきです。喫煙は肺癌発生の危険を高める事からアスベスト暴露に関係なくやめるべきですが、アスベスト暴露の可能性がある場合は、肺癌発生の危険性が非常に高いことを認識され、一刻も早く禁煙してください。なかなかやめられない方には、禁煙外来のある施設への受診をお勧めいたします。