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産後の気分障害(2006年4月11日掲載)

佐久本 薫(琉大医学部付属病院)

質問票活用で早期対処

周囲の理解が改善の鍵

出産はおめでたいこととされていますが、「産後の肥立ちが悪い」という言葉があるように、身体的あるいは精神的に不調を訴える産後のお母さんがいます。本稿では産後の母親に見られる気分障害であるマタニティーブルーズと産後うつ病について考えてみましょう。

出産直後から一週間ごろまでの母親が何となく元気がなく、涙もろくなることがあります。主な症状は涙もろさと抑うつであり、他に不安、緊張、集中困難、不眠などの精神症状とともに、疲労、頭痛、食欲不振など身体の不調を訴えることもあります。こうした症状は数日で元の状態に戻ります。このような一過性の気分や体調の障害をマタニティーブルーズと言い、6・5%―26%の母親に見られるとされています。

マタニティーブルーズは病的な意味は小さく、そのまま様子をみるだけで良くなります。注意しなければいけないのは次に述べる産後うつ病に移行する人がいることです。マタニティーブルーズを見つけるためには自分で質問に答える自己質問票があります。最近は、この自己質問票を利用する産科施設が増えています。母親と医療スタッフがマタニティーブルーズであることを認識し、適切な対応をすることは大切なことです。

産後うつ病は、憂うつな気分が一日中続き、いろいろなことへ興味を失い、眠れない、体重が減ってくるなどさまざまな身体症状が加わってきます。日常生活や子育てに支障を来し、重症例では自殺や子供を道連れに心中したりすることもあります。わが国では産後うつ病は少ないとされてきましたが、最近では欧米と変わらず産後の母親の10%―15%に見られるとされています。

産後の母親が抑うつ的であれば、周囲の人や医療スタッフが本人の気持ちをゆっくりと聞いてあげることが大切です。このような母親には休養が必要で、育児や家事の手伝いが必要なこともあります。一番身近にいる夫の役割も大切です。

産後うつ病のスクリーニングにはエジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)が用いられます。産後うつ病は自分で気付かないこともあり、スクリーニングや周囲の人が気付いてあげることが重要です。軽症例では周囲の人や産科スタッフと会話することで良くなることも多いのです。中等症以上の例は精神科や心療内科などの専門医に診てもらう必要があります。早めに診断し、対応することが大切です。

産後の身体的異常や精神的異常はとりあえず出産した産科施設に問い合わせて下さい。適切なアドバイスが受けられます。必要であれば専門医を紹介してくれます。また、インターネットでも周産期メンタルヘルス研究会(PSI−JAPAN:http://www.hac.mie−u.ac.jp/PSI_JAPAN/top.asp)が産後うつ病に関する一般の人からの質問を受け付けています。

産後の母親の心と体が健全で、誕生した赤ちゃんが健やかに育つことを願います。