今回は外来でよくお目にかかる指の腱鞘(けんしょう)炎、「ばね指」と「ドケルバン病」についてお話しします。
まず、ばね指についてですが、「ばね」という名前の通り、この病気は進行すると指を曲げた状態から伸ばす際に引っかかり、さらに伸ばそうとすると、ばねのように急激に伸びます。ちょうどおはじきをはじく時の指の動きを想像していただければよいかと思います。
主に妊娠中、産後、更年期の女性に起こりやすい病気ですが、キビ刈りで忙しいオジイ、ゴルフレンジで一日三百球、コースで百二十球練習するお父さんにも見られます。右手の親指に最も多く(約六割が親指)、ついで中指、くすり指の順になっています。
原因は、指を曲げるための腱というヒモと、腱鞘という腱の浮き上がりをおさえるためのトンネルとの間に使い過ぎによる炎症が起こることによります。この炎症が進行すると手のひら側の指の付け根に痛み、腫れ、熱感がおこり、さらに指を使い続けると「ばね現象」が出現します。ばね指を放置して「使い過ぎ」の状態を続けていると、腱鞘が肥厚したり、腱が肥大、硬化し「ばね現象」はさらに悪化します。しまいには、指が伸ばせない状態になることもあります。
次にドケルバン病についてお話しします。これもばね指と同じ腱鞘炎ですが、ドケルバン病は指の付け根ではなく、手首の親指側に痛みがでます。
これは親指を伸ばす働きの腱、広げる働きをする腱がそれらをおさえる腱鞘のあいだで炎症を起こすことで発症します。ばね指と同じく親指の使い過ぎが原因で妊娠中、産後、更年期の女性に起こりやすく、パソコンを使った職業、フライパンで料理をするのが大好きで毎日フライパンを振っている人などにも見られます。
身に覚えのある方や手首の痛みがある方はためしに、親指を曲げ、他の四本の中に入れた「グー」をつくり、手首を小指側に曲げてみてください。ドケルバン病では手首の親指側に強い痛みがでるはずです。
ここで治療法についてお話ししましょう。前にお話ししたように、ばね指もドケルバン病も使い過ぎによる腱鞘炎です。ですから治療の第一は「使い過ぎない」ことです。そうはいってもなかなか難しいという方には副木で固定することもあります。同時に炎症を抑える薬を内服したり、あるいは炎症を起こしている腱鞘に直接注射をしたりします。
それでも症状が続き、仕事に支障が出てきて困るという方には手術をします。ばね指もドケルバン病も炎症を起こしている腱鞘を切開して腱を開放します。ばね指は手術時間十―十五分で約一センチの切開で、ドケルバン病は手術時間十五―二十分で約二センチの切開で、いずれも局所麻酔で日帰りの手術です。人によって違いはありますが、二―三日で痛みもよくなり、一―二週間で抜糸、水仕事も可能になることが多いようです。
何事も「過ぎたるは及ばざるが如し」で、がんばり過ぎず、怠け過ぎず。使い過ぎたらお休みを。手も心も炎症にはご注意を。