肺は生命を維持するのに必要不可欠で重要な臓器です。私たちは誰しも、呼吸を止めて生きることができません。つまり、肺は常に外と直接つながっていて、いろいろなものを吸いこんでいるのです。これが他の臓器と異なる点です。
人は一分間に約十六―二十回呼吸をしています。一時間で約千回、一日で約二万回の呼吸をします。その間私たちは何を吸い込んでいるのでしょう。じっと胸に手をあてて、考えてみてください。
肺のこのような特性から、肺にはさまざまな病気が起こります。この中で特に重要な病気の一つに菌やウイルスが原因となる、肺炎があります。肺炎は日本人の死因の第四位を占める病気で、年間約八万人が死亡しており、小児にも、若年者にも、そして高齢者にも、男性にも女性にも起こる病気です。ではなぜ肺炎になってしまうのでしょうか?
私たちの体は、菌と共存しています。口の中にも、歯の間にも、手のひらにも、おへそにも、足の裏にも菌がいますが、通常これらは私たちに悪さはしていません。また私たちの体には、外からの菌やウイルスなどの侵入を阻止するためのバリアーがあります。
この菌やウイルスの侵入と私たちのバリアーのバランスが崩れたときに感染症、肺炎を起こしてしまうのです。風邪をひいて、のどの粘膜が炎症を起こすと、バリアーが弱くなり、菌やウイルスが肺へ到達しやすくなり、そこで炎症を起こしてしまいます。それ以外の他の原因でもバリアーは弱くなります。このバリアーが弱い高齢者は、肺炎になりやすく、また重症になりやすいのです。
つまり、肺炎にならないためには、菌やウイルスの侵入を阻止し、その数を減らすこと、そして私たちのバリアーを強くする必要があります。手洗いやうがいをして風邪の予防をすること。またインフルエンザや肺炎球菌のワクチンをうち、予防をすること。禁煙をして、のどや気管支の粘膜を正常に保つこと。その中でも、特に高齢者はうがいや歯磨きで口の中の衛生を保ち、口の中の菌を減らすことが、肺炎の予防にとても役立ちます。
高齢者の肺炎でもっとも重症なものに、嚥下(えんげ)性肺炎があります。これは口の中のものを間違って肺の中に入れてしまうことによって起きる肺炎です。高齢になると「ごっくん」と飲み込む機能、つまり嚥下機能が低下し、食事、特に水分にむせることが多くなります。
この時、口の中のものが肺の中に知らず知らずのうちに入り込みます。もしこのとき、虫歯が多くあったり、口の中がよごれていたり、菌が多い状態だったりしたらどうなるでしょう。とても重症な肺炎を発症することになり、その治療は大変困難なものになります。特に寝たきりの高齢者はその危険性が高く、また肺炎の症状もはっきりしないことが多いので、より注意が必要です。
速い呼吸や浅い呼吸は、肺炎の最初のサインです。これを見逃さず、早めに医療機関を受診してください。病気を治すより、予防をすることが簡単で大切です。周りの人にぜひすすめてください。