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透析患者の手根管症候群(2006年1月31日掲載)

新井 弘一(沖縄第一病院)

しびれや痛み、握力低下

発症後、早期の手術が効果的

血液透析で通院する患者さんには、透析患者に特有の病気が見受けられます。アミロイドーシスといわれる病気もそのひとつです。これは血液透析をする際に本来は腎臓で排出されるべきβ2マイクログロブリンというタンパク質が除去されずに血液内に蓄積し、その代謝物質であるアミロイドが骨・靭帯(じんたい)・内臓などさまざまな組織に沈着することにより障害を引き起こすものです。

手根管内にアミロイドが沈着して神経が圧迫され、手のしびれを生じるのが透析による手根管症候群です。手根管というのは掌(てのひら)の付け根にある場所を指しますが、骨と靭帯に囲まれたトンネルの中を神経(正中神経)と腱(けん)(手指屈筋腱)が一緒に走る構造になっています。健康な人の場合、天井部分に当たる靭帯が厚くなってトンネルが狭くなることにより手根管症候群を発症しますが、透析患者の場合は腱の周囲にアミロイドが沈着して腫れるためにトンネルが狭くなって手根管症候群を発症します。

手根管症候群になると、掌から手指のしびれや痛み、握力の低下、指を曲げられない、ものをつまみにくい―などの症状が出現します。健康な人の場合は内服や注射、装具療法などで症状の改善が期待できますが、透析患者の場合は透析を止めない限りアミロイドの沈着はなくならないので、こうした治療ではあまり症状の改善は期待できないといわれています。

手術による治療の場合、同じ手術を行っても、発症後二年以上経過した症例では発症後六カ月以内に手術した症例に比べ成績が有意に低下したという報告もあるので、症状が増悪する場合には患者さんと相談しながら、なるべく早いうちに手術をする方がいいと考えています。

手術の方法は病気の進行の程度に合わせてさまざまな方法があります。カメラや特殊なメスを用いて一―二センチの小さな皮切(ひせつ)で靭帯のみを切離する方法は、手術の時間も短く、術後の痛みも少ないので患者さんに喜ばれる方法です。しかし病気の主体である腱周囲のアミロイドを除去することはできないので、数年後に症状が再発する場合があります。

これに対して四―五センチの皮切を加えて腱周囲のアミロイドまで除去する手術は、傷が大きく時間も多少かかりますが、それだけ再発率は低くなると考えられます。どちらの方法を行うかは患者さんとよく相談しながら決めています。いずれの場合も局所麻酔で一時間程度の手術なので入院の必要はありません。