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メタボリックシンドローム(2006年1月17日掲載)

田仲 秀明(田仲医院)

男性は若くても発症の危険

社会的広がりで取り組みを

日本は五十年後、三人に一人が高齢者という人類史上始まって以来の超高齢化社会を迎えようとしています。これからの十年間は、団塊の世代が定年を迎え、市町村の医療・介護負担の急増が予想されます。われわれ医療機関にとっての問題は、高齢化が進むほど一人の患者が多くの病気を抱え込む状態となり、医療資源を費やしてしまうことです。この状態の中核をなすのがいわゆるメタボリックシンドローム(MS=肥満+高血圧+高脂血症+高血糖)です。

二〇〇三年度の豊見城中央病院人間ドック受診者約七千人からMSの頻度を調査しました。MSの頻度は、男性約三割、女性約一割でした。予想通り女性では、年齢とともに頻度が上昇しましたが、男性においては、若い世代を含むどの年齢層にも高い頻度でMSを認めました。皆さまもよくご承知のように、MSの発症には加齢だけでなく、高脂肪食+車社会=欧米型ライフスタイルも大きく関係しています。

わが国では、若い人たちほど濃厚にこれが浸透しており、このことが強く影響した結果だと思われます。閉経前の女性は、主に女性ホルモンのためと考えられていますが、男性ほどMSに対して欧米型ライフスタイルの影響を受けないようです。従って、特に男性では、MSは加齢に関係するというより、むしろ若くても発症の危険性がある、文字通り生活習慣病であると認識する必要があります。

同院糖尿病・生活習慣病センターでの、その後一年間の観察では、人間ドックでいったんMSの診断がつき、生活指導あるいは薬物療法を受けた群では、一年後に男女とも四割以上(男性六百六十一人中二百六十五人、女性百六十八人中七十三人)が改善しMSが治りました。その際、生活指導と薬物療法のそれぞれの改善率には大きな差を認めませんでした。

一方、MSが無いと判断され、全く指導を受けなかった群から、一年後に新たに男性千六百二十九人中二百十三人、女性千五百七十三人中六十二人にMSが発症しました。つまり一年間にMSが治った人数と、新たにMSになった人数がほぼ同数でした。医療機関ベースの現行のやり方では、MSを治すのは比較的容易でも、減らすのは難しいということになります。

MSになると慢性腎疾患の発症比率は二倍、心筋梗塞(こうそく)・脳梗塞が三倍、糖尿病に至っては九倍以上になることが分かっています。現在の状況は沖縄クライシス(危機)と呼ばざるを得ませんが、医療機関だけでこれに対応するならば、モグラたたきに終わってしまうことは前述の通りです。

本格的な超高齢化社会を迎える前に、医療資源を浪費しかねないMSを減らすには、いかに大きな集団を対象にできるかが鍵です。頻度が喫煙率並みであることを考えれば、MS対策には医療機関を越えて、もっと社会的な広がりが必要です。そして将来の保健財政を真剣に考えるならば、行政機関が本腰をいれて取り組まなければならないことは言うまでもありません。