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長引く咳の見分け方(2006年1月10日掲載)

森 俊和(もりクリニック)

期間、痰、随伴症状で判断

2週間以上なら受診必要

咳(せき)は、誰もが体験したことのあるごくありふれた症状の一つで、日々の診療で多い訴えの一つです。

咳は、気道(鼻から気管・気管支、肺までの空気の通り道)が刺激されたときに起こる反射で、そのメカニズムは完全には解明されていません。気道に刺激が加わると迷走神経が興奮し、延髄の咳中枢に伝えられ、そこから迷走神経を介して喉頭(こうとう)、肋間(ろっかん)、腹壁などの呼吸筋が刺激され、急速に収縮して咳が発生すると考えられています。

日本での咳の正確な頻度は不明ですが、イギリスでの調査では全人口の10―15%の人が毎日咳を経験しているということです。また、アメリカでは年間百億円以上の医療費が咳の治療に費やされているそうです。

咳はエネルギーを消費し、長引くと体力を奪います。重大な病気の初期症状の場合もあり、注意が必要です。頑固な咳は風邪かもしれませんし、もしかすると気管支喘息(ぜんそく)、肺炎、気管支拡張症、COPD(慢性閉塞(へいそく)性肺疾患)、肺線維症、肺結核、肺がん、肺水腫などの病気が関係している場合もあります。

また、長く続く咳は患者自身にも問題ですが、咳によってインフルエンザや新型肺炎(SARS)のようなウイルスや結核菌といった重要な感染症を伝播(でんぱ)させ、周囲の人にも悪影響を及ぼします。咳が二週間以上続くようでしたら、ぜひかかりつけ医の診察を受けましょう。

診察時、聴診で肺雑音が聞かれたり胸部レントゲンで異常が認められたりする場合は診断は比較的容易ですが、異常は認めないのに何週間も咳が続く患者の診療は容易ではありません。最近このような患者が増加傾向にあり、日本呼吸器学会から「咳嗽(がいそう)に関するガイドライン」が発表されました。

咳の見分け方には三つのポイントがあります。(1)咳の持続期間(2)痰(たん)の有無(3)咳に随伴する症状―です。ガイドラインでは、まず咳の症状の持続期間によって、三週間以内の急性咳嗽、三―八週間の遷延(せんえん)性咳嗽、八週間以上の慢性咳嗽と定義しています(図)。

急性咳嗽の原因は多くの場合呼吸器感染症であり、咳の持続とともに感染症以外の原因による遷延性・慢性咳嗽が増加します。慢性咳嗽の原因疾患として多いのは副鼻腔(びくう)気管支症候群、咳喘息、アトピー咳嗽、感染後咳嗽、胃食道逆流症、降圧薬(ACE阻害薬)によるものです。

次に、咳には痰が出ない乾性咳と、痰を伴う湿性咳とがあり、原因疾患と関連します。たとえば気管支喘息では夜間から早朝にかけて咳込み、ゼイゼイし、喉(のど)にからみつくようなネバネバした透明な痰が出ますが、肺線維症では乾いた咳が続き、歩くと息切れがするなどの特徴があります。

さらに、咳に伴う症状として、呼吸困難、喘鳴(ぜんめい)、胸痛、発熱、上気道炎症状があるかどうかで、疾患のおおよその見当を付けることができます。

咳の様子をチェックし、詳しくかかりつけ医に知らせるようにすると、診断におけるヒントになります。病気の診断がつけば治療法はおのずと決まってきます。咳に苦しむ患者のQOL(生活の質)の向上の一助となることが、かかりつけ医の願いです。