沖縄県医師会 > 健康の話 > うちなー健康歳時記 > うちなー健康歳時記2005年掲載分 > 脂肪細胞と不妊

脂肪細胞と不妊(2005年12月20日掲載)

■永 義光(ALBA OKINAWA CLINIC)

ホルモン分泌 病状左右

個人差把握 効果的に治療

脂肪は女の敵といわれる。私もそう思っていたし、患者にもそのように指導してきた。しかし科学の進歩はすごい。体の中で無駄で嫌われものであった脂肪にも重要な働きがあることが証明されてきたのだ。そして脂肪細胞には個人差があり、その違いは妊娠しやすさにも影響してくることが分かってきた。

脂肪細胞は多くのホルモンを分泌する。そのため脂肪は身体最大の内分泌臓器とも呼ばれている。脂肪細胞由来のホルモンのうち現代人に良い影響をおよぼすもの、つまり善玉ホルモンがある。それが「アディポネクチン」である。アディポネクチンは動脈硬化を抑える効果があり最近注目のホルモンであるが、その中心的な作用はインスリンの作用を助けることだ。

食物が口から入ると消化吸収して肝臓に取り込まれる。肝臓では全身のエネルギー源としてブドウ糖を合成し全身に送る。ブドウ糖は膵臓(すいぞう)から分泌されたインスリンによっていったん肝臓と骨格筋に蓄えられる。その時脂肪細胞からアディポネクチンを多く分泌している人はスムーズにブドウ糖を蓄えることができる。

一方アディポネクチンを少量しか分泌していない人ではブドウ糖の貯蔵がうまく行かず、血糖が上がる。その結果血糖を正常化するためにたくさんのインスリンが必要になるのだ。つまりアディポネクチンが高い人はインスリンの効きが良く、反対に低い人ではインスリンの効きが悪く、高インスリン血症となる。

遺伝的にアディポネクチンを多く分泌する人と、その半分しか分泌しない人がいることも分かってきた。脂肪細胞にも個人差があるというのだ。日本人の約40%は分泌量が半減する遺伝子を持つといわれている。さらにこのアディポネクチンは高脂肪食を摂取して肥満になったり、ダイエットなどで極度にやせ、脂肪が萎(い)縮したりすると分泌量が激減する。したがってアディポネクチンの分泌は遺伝と生活習慣によって大きく左右されることになる。

遺伝的にアディポネクチンが低い人が飽食によって太ってしまうとブドウ糖を調節するインスリンの必要量が増加する。インスリンが一日を通したくさん分泌されている状態は卵巣で排卵障害をおこし、不妊の大きな原因となる。また肥大化した脂肪細胞から分泌する悪玉ホルモンは組織を害したり、血液を固まりやすくしたりして流産の原因となる。逆に過度のやせも結果としてインスリンが高くなり排卵障害を引き起こす。

二十一世紀はオーダーメード医療の時代といわれている。遺伝的な個人差をしっかり把握した上で薬剤を選択し生活習慣を指導することで、その人に合ったより効果的な治療が行える。近年はアディポネクチン分泌を高める薬剤も使えるようになり、分泌量が遺伝的に少ない人には朗報である。

もちろん食事療法、運動療法も低下したアディポネクチンを上昇させる。脂肪細胞の個人差を知り、適切な不妊治療を行うことが次世代を担う子供の誕生につながるのだ。「たかが脂肪、されど脂肪」とつくづく思う。