私はこれまで二十年間、糖尿病の診療に携わってきました。この二十年間に糖尿病に関する検査、治療についての進歩は目覚ましいものがあります。しかしながらいまだに糖尿病の患者の数はどんどん増えており、今や糖尿病は日本の国民病となりつつあります。また、不幸なことに糖尿病のために失明や透析にいたる患者も一向に減りません。
このことはいまだに糖尿病治療の中心がお薬ではなく、食事療法や運動療法であるため、どうしても患者の皆さんの自己努力に頼らざるを得ない部分があるからだと思います。もしもどんなに食べても太らない薬や、肥満しても血圧が上がらない、あるいは糖尿病にもならないような薬ができれば、われわれ医療者も患者教育に一生懸命になることはありません。現在そのような薬はありませんので、どうしても患者教育をしっかりやっていかないといけないのです。
しかしながら多くの患者さんは生活習慣の修正がなかなかできません。特に食事療法というのは難しいものです。この飽食の時代に、食べたいものも食べず、飲みたいものも我慢していくというような人生をずっと続けることは大変なことです。
肥満している患者さんには共通の生活パターンのひずみがあります。食事は二回食で、朝食を取らず、寝る前にたくさん食べることが多いというのが特徴的です。また食事時間が不規則で、ほとんどの方がかなり早食いなのもひとつの特徴です。このような生活パターンを修正しない限り減量していくことは困難です。
一度うまく減量に成功した方が元に戻ってしまう、いわゆるリバウンドは肥満を治療する上で厄介な問題です。急激な減量がリバウンドをきたしやすいことがわかっています。一日五百キロカロリーというような極端な食事療法が有用なことはあまりありません。このような超低カロリー食は通販で手軽に手に入るのですが、生命の危険にかかわることさえありますので、医師の指導のもとにやらなければなりません。
最近、健康食品、サプリメントのたぐいを愛用する患者さんが大変多く、外来でその効果について質問されることがよくあります。これらのものは薬ではありませんので、その効果についてのきちんとしたデータがありません。ですから効くとも効かないとも言えないので、主治医としてははっきりとしたアドバイスができず困ってしまいます。
私自身はある種の健康食品が明らかな効果があったというようなことを経験したことがありません。なかなかやせることができない方が焦ってこのような商品にのめりこんでしまうような印象があります。
減量の道に王道はありませんが、その方法には当然個人差があります。無理せず長く続けられる、その人にあった方法が必ずあります。われわれ医療従事者は早くその方法を見つけられるようにお手伝いをしたいと思っています。