夏から秋に季節が変わり始め、スポーツには最適なシーズンとなりました。しかし、スポーツには怪我(けが)がつきものです。特に全力プレー中に起こる予期せぬ怪我は防ぎようがない、とも言えます。そこで今日は、スポーツ中に多い膝(ひざ)関節の怪我と原因、その予防についてお話しします。
膝関節の中には、半月板、靭帯(じんたい)など、膝関節を保護、安定化させる機能を持った多くの器官が存在します。この中で、運動時の膝関節の安定性に特に寄与するのが前十字靭帯です。前十字靭帯とは膝関節の中にあって、大腿(だいたい)骨(太ももの骨)と脛骨(けいこつ)(すねの骨)をつなぐ靭帯です。
脛骨の形態は、関節面が少し後ろに傾いており、このため、ジャンプなどで着地するときに大腿骨が後ろに飛び出そうとする力が働きます。この動きを抑えているのが前述の前十字靭帯です。
怪我の原因としては、着地時、また軸足を地面に固定させてターンする、相手と接触し膝を捻(ねじ)った時など、膝関節内にある靭帯に過度のストレスが加わり、前十字靭帯の損傷、あるいは断裂を来します。
前十字靭帯が損傷したり、断裂したりすることで、膝関節が前後方向あるいは回旋方向に不安定となり、競技スポーツなどのハードな運動が困難になる。また、常に膝がグラグラ不安定な状態でいると、膝関節表面の軟骨がすり減ってしまい、将来的に変形性膝関節症という膝の老化現象を早期に来す可能性が高い、といわれています。
治療としては、保存療法(手術以外の方法)と手術による靭帯再建(損傷した靭帯の代わりに新しい靭帯を作り直す)を行う方法と二通り存在します。
保存療法としては、装具を装着したり、膝周囲の筋肉を鍛えたりして、膝関節を安定化させます。しかし、保存療法を行っても靭帯が再びつながるわけではなく、あくまで靭帯の代わりになるような、膝関節安定化器官を装具や筋力で補おう、というものです。このため、膝関節の安定性を完全に回復することは困難です。
手術をすれば、個々人の術後の筋力回復の程度、競技種目にもよりますが、半年から一年でスポーツ競技への復帰も十分可能です。
前十字靭帯損傷は不慮の怪我で受傷する場合がほとんどです。前述のように、脛骨の後方への傾きが大きい人に起こりやすいとされていますが、過去のデータによると膝を曲げる筋力が弱い人に前十字靭帯を損傷する人が多い傾向がある、とされています。
スポーツ競技において予期せぬ怪我に気をつけるのは、全力でプレーしている以上、大変難しいと思いますが、予防的に膝関節周囲の筋肉、特に膝を曲げる筋肉(太ももの裏の筋肉)を鍛えることを勧めます。
また、靭帯や半月板はエックス線検査で写ることがないため、昔の怪我を「エックス線では骨に異常はありません」と言われ、長年放置されていることもしばしばです。昔の怪我のあと、膝の不安定感や痛み、引っかかり感などの症状が持続している場合は、専門の整形外科を受診し、靭帯や半月板の状態も含め、磁気共鳴画像装置(MRI)検査など詳しく検査してもらってください。
手術後のハードなリハビリ、トレーニングを行うことで、より高い競技レベルへの復帰も十分に狙うことができると考えます。