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亜急性甲状腺炎(2005年9月6日掲載)

長澤 慶尚(北部地区医師会病院)

風邪の後に急な首の痛み

専門外来の受診を

「風邪をひいた後に急に首が痛くなって、何週間も痛みが取れない」「痛い場所が首の右だったり左だったり、日によって違うことがある。ご飯は食べられるけれども飲み込む時にすごく痛い」等の強い症状が見られるのに、診断されるのが遅れがちで、つらい思いを強いられる甲状腺の病気があります。しかもこの病気は特効薬を正しく使いさえすれば痛み等の症状は速やかに(多くの場合は一―二日以内に)抑えられるのですが…。

皆さん亜急性甲状腺炎という名前を聞いたことがあるでしょうか。甲状腺は首の前の方にあって、肺につながる空気の通り道である気管の外側に巻き付くように位置している、ちょうど蝶(ちょう)が羽を広げたような形をした小さな器官ですが、ここが突然痛くなる病気が亜急性甲状腺炎です。

亜急性甲状腺炎はいわば甲状腺がひく風邪みたいな病気です。もちろん「風邪」は喉(のど)が痛くなったり、鼻汁が出たり、咳(せき)をしたりする上気道炎を起こすウイルス感染症ですが、この病気もウイルスの感染によって引き起こされますし、風邪様の症状に引き続いて発症します。実はほっておいても時間がたつと何とか治るのですが、我慢しがたいほどに痛い上、再発したり、運が悪いとその後甲状腺機能低下症になったりしてしまうこともあります。

意地をはって我慢するよりもお薬を飲んだ方がずっと早く楽になります。使うお薬はプレドニゾロンという免疫・炎症を抑える副腎皮質ステロイド薬です。亜急性甲状腺炎の治療には最初は四―六粒の薬を飲みますが、一―二週間ごとに量を減らしてゆき、二―三カ月で治療を終了します。

少し食欲が増して太りやすくなりますが、長期に使う事による副作用は起きません。胃・十二指腸炎や潰瘍(かいよう)の治療をしている人は症状が悪化しかねないので使いづらいですが、その他の場合は注意して調整すれば問題なく治療できます。

最近は県内でも甲状腺専門をうたう医院や病院が増えておりますし、人間ドックの超音波検診に取り入れる施設も多くなって、少しは皆さんにも甲状腺というホルモン臓器が知られるようになってきたかなと思います。

よく「喉がつかえるんだけれど…」と言って甲状腺外来を受診される方がおられますが、ご飯の通り道である食道は甲状腺の左後ろ側を通っていて、関係していることはあまり多くはありません。多くの場合は更年期の前後に声がれを伴って喉頭(こうとう)から食道の粘膜に見えないような小さな傷がつき、粘液の潤いが低下したのを敏感に感じ取る、老化現象の先駆けであることが多いようです。

喫煙歴のある高齢男性では、食道がんの疑いもあり、上部消化管内視鏡検査をお勧めすることもあります。しかし風邪をひいた後に突然首の前の方が痛くなったら。あなたはもしかしたら亜急性甲状腺炎かもしれませんので、我慢をするよりも甲状腺専門外来を受診してみてはいかがですか。