人工関節は一九八〇年代から盛んに行われるようになりました。特に、股（こ）関節や膝（ひざ）関節に広く適応され、これまで歩くことが困難な方でも人工関節置換術を受けることにより劇的に痛みが無くなり、脚の変形も改善し、歩けるようになるという整形外科の最先端の手術法です。これまで変形性関節症や関節リウマチのため関節が壊れてしまい、痛みや変形で悩んでいた方がその恩恵に浴しています。現在では肩関節や肘（ひじ）関節にも応用されるようになりました。
人工関節置換術を受けた日は人工関節の誕生日です。自分の誕生日を毎年なんらかの形で祝うように、人工関節の誕生日には人工関節を受けた病院または近くの整形外科医でエックス線を撮ってもらってください。
人工関節は人間が研究開発した人工物であり、その寿命は十五年から二十年といわれています。人工膝関節置換術の場合、私の勤務している病院での手術時平均年齢は七十三歳ですので、十五年から二十年経過するとおよそ九十歳となります。九十歳前後の一般的な日常活動は七十歳代の方に比べかなり低下しており、その時点で人工関節に異常が無ければその後に人工関節が壊れてしまうことはまず無いといえるでしょう。しかし、定期的なエックス線検査・撮影は必要です。
たとえば自動車を買ったら、三年後には車検を受け、その後二年ごとに車検を受けなければなりません。それと同じように人工関節にも車検が必要なのです。病院でエックス線を撮るだけなら、健康保険の種類で多少異なりますが千円程度です。何ともなければそれはそれでＯＫです。何かあると困るのです。例えば、人工関節にもゆるみを生じることがあります。早い時期にそれが見つかれば、ちょっとした車の部品を交換するように、比較的簡単な手術で人工関節の一部を取り換える手術でさらに十五年、二十年と快適に過ごすことができます。
これに対し、自動車の車検を怠り放置していると重大な故障を引き起こすことがあります。その時には自動車の心臓部分であるエンジンを総入れ替えということがあるかもしれません。その経済的な負担は非常に大きくなります。自動車の場合はさらに性能の良い新車に買い替えるという気軽な方法もあるかもしれません。しかし、人工関節には気軽な方法はなく、人工関節再置換術ということになります。
人工関節にゆるみを生じ長く放置していると、人工関節自体が壊れると同時に人工関節を支えている骨も壊れ、一部に骨欠損を生じているのです。その場合には骨欠損を補うため複雑な人工関節を使うことになり、手術侵襲も大きく、手術時間も長くかかるのです。要するに二回目の手術は最初の手術より非常に難しくなることがあるということです。
もう一度人工関節を受けられた方へお願いします。人工関節の誕生日には手術をしてもらった先生にエックス線を撮ってもらってください。