沖縄県医師会 > 健康の話 > うちなー健康歳時記 > うちなー健康歳時記2005年掲載分 > 乳房再建

乳房再建(2005年8月9日掲載)

新城憲(県立那覇病院)

各人に適した方法を

心癒やし、自信取り戻す

現在、乳がんは、わが国において女性のがん罹患(りかん)の第一位で、年間約三・五万人が発症し、約一万人が死亡しています。県内でも、年間約四百人の方が新たに乳がんと診断され、患者数は年々増加しているのです。

乳がんの治療は、手術に加え、抗がん剤・ホルモン剤による薬物療法や放射線療法などを組み合わせて行われ、治癒率も向上しています。手術としては、乳房の全切除が標準でしたが、しこりが小さい場合は、できる限り乳房を温存する方法が近年の主流になっています。とはいうものの、実際には乳房温存手術が適さない患者さんも数多くおり、乳がんの診断もさることながら、女性の美しさの象徴でもある乳房を失うことからくる精神的痛手も、決して小さくはないと思います。

そこで、こうした心の痛みを癒やし、女性としての自信を取り戻し、よりよい社会生活を送れるように手助けをする目的で行われるのが「乳房再建」です。乳がんの罹患率が日本より高い米国では、再建を担当する形成外科医を含めた関連各科がチームを組んで診療にあたり、乳房再建も治療の一環であるとの認識があります。

残念ながら、わが国では、このような乳房再建に対する認識は、まだ、十分とは言えません。それでも、乳がん患者絶対数の増加、失われたボディーイメージの回復を願う意識の高まり、さらに手術手技の進歩もあって、乳房再建を希望する患者が増えつつあります。

乳房再建には、乳房切除と同時に再建する方法と、切除後に一定期間をおいて再建する方法の二つがあります。手術時間が長時間になるという短所はあるものの、全身麻酔下の手術が一度で済むという長所のため、乳房切除と同時に再建を希望する方が多くなっています。

手術は自家組織(自分の身体の一部分)、人工物のどちらかを使用、または両者を同時に用いる方法の三つの中から選択します。自家組織は腹部、背部、臀部(でんぶ)から採取しますが、十分な量の組織が確保できること、採取しやすいこと、採取後の傷跡が目立ちにくいことから腹部の組織を主に用います。また、乳輪乳頭を残せない場合には、後日、乳輪乳頭を作ります。

人工物としてはシリコンバッグまたは生理食塩水バッグを用います。人工物を使用する利点は、身体の他の部分に傷を残さないこと、手術時間が短く身体への負担が少ないことなどが挙げられます。しかし、形が調整しにくい欠点や、長期的に見ると、バッグが破損したり、硬くなったり(被膜拘縮)する危険性もあります。一番大切なことは、手術方法を十分理解し、各人に合った適切な方法を選択することです。

乳がん術後の生活の質を向上させる上で、乳房再建は大きな意義があります。今後も、一般外科医、乳腺外科医と形成外科医が連携をより密にして、乳房を失った女性の願いに応えていきたいと思います。