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うつ病と自殺(2005年8月2日掲載)

平良直樹(天久台病院)

休養と薬物療法が基本

ゆっくり、焦らず、長い目で

人は誰でも悲しいことや失敗を体験すると、落ち込んだり憂うつになったりするものです。大抵の場合は時間がたてば自然に元に戻ります。ところが、原因があるなしにかかわらず、落ち込んだ気分が長く続き、生活に支障が出る場合は「うつ病」ということになってしまいます。

たとえて言うと、寒風にさらされてひいた風邪と、こじらせた肺炎のような違いかもしれません。肺炎でも養生していれば自然治癒もあり得ますが、適当な抗生物質を投与すれば大事に至らず早く治すことができます。

うつ病にも副作用の少ない効果的な新薬(SSRI、SNRIなど)が使われるようになり、完治、再発予防ができるようになってきています。ここで一番困るのは、治す方法があるのに絶望してしまい死を選ぶ人がいることです。風邪の鼻づまりでさえこれが一生続くとなると死にたい気分になるかもしれません。でも、ちょっと待ってください! 治るんですこれが!

うつ病になりやすいタイプは、仕事熱心、きまじめ、きちょうめん、物事に徹底的にこだわる人、いつも他人に気をつかう人などです。だから、先を読むことにもたけているかもしれませんが、人間の小さな頭の中で考えることが完全なはずはありません。特にうつ病に陥ってしまいますと、悪いことしか思い浮かびません。自分の存在価値が感じられなくなったり、人の迷惑になっているように思ったり、この世にいないほうがましだと思ったり。

でも、世界の歴史、現在の状況を見ても事態は常に変化していますよね。同じ状況がずっと続くことはなく、必ず変わっていくのです。このどうしようもないうつ症状(悲しい気分、考えられない、人と会いたくない、眠れない等)も未来永劫(えいごう)に続くことはありません。

ところで、宝くじも買わなければ絶対当たりませんが、たった一枚買うことによって当たるかもしれません。うつ病の治療はそれよりも何万倍も効率よく治るのです。これを試してみない手はないでしょう。最近の外来治療でも早い人で二週間以内、難渋した人で足かけ二年という人もいましたけど、でも良くなったときは本当に感謝されました。この治療の成功の秘訣(ひけつ)は、「治る可能性に気づくこと」「死を選ばなかったこと」です。

本来うつ病は、エネルギーのなくなる病気(車にたとえるとガス欠の状態)ですから、治療には休養と薬物療法(抗うつ薬)が基本です。うつ病は時間がかかっても必ず治ります。一進一退を繰り返しながら回復していくこともあります。

どんな高級車でもスポーツカーでもガス欠では走ることはできません。優秀な運転手がいても、完ぺきに道路を整備したとしてもです。ゆっくりガソリンがたまってくるのを待ちましょう。周囲の方もむやみに励ましたりせず、焦らずに長い目で患者さんを見守っていきましょう。何よりも勇気を持って専門医の門をたたいてください。