日本人の死亡原因は、昭和五十六年から「がん」が第一位を占めており、総死亡の31%といいますから三人に一人はがんで亡くなる計算になります。近年のがん治療の著しい進歩に伴い、生存期間の延長が可能となってきていますが、その半面他臓器への転移、特に脳転移に対しどう治療すべきかが大きな問題となってきていることも事実です。
転移性脳腫瘍(しゅよう)の特徴は、一言で言えば「時間的空間的多発」だと思います。つまり脳内の異なる場所に、時間差攻撃で多数の転移巣が発生するわけです。治療に際しては、空間的多発と時間的多発(再発)の両方に、十分対応し得る選択肢が必要になります。
また、長期の入院を要する治療法では、患者さんのQOL(生活の質)を低下させ貴重な時間を無駄にしてしまう可能性があるため、できるだけ短い入院期間で体に負担の少ない治療法を選択しなければなりません。しかし、従来の手術療法や放射線療法(全脳照射)では、「時間的空間的多発」に十分対応できず、長期間の入院を要したり、合併症などの体への負担を覚悟しなければならないのが実情でした。
現在われわれが行っているガンマナイフ治療は、多くの場合二泊三日の入院で、脳内の多数の病変を同時に治療することができ、正常な脳への影響は最小限に抑える治療法です。再発した場合にも、再治療は可能です。
術後合併症の危険や体への負担は非常に少なく、術後も一―二日洗髪を待っていただく程度の制限で済みます。場合によっては、治療が終わった翌日から職場復帰も可能です。髪の毛を短く刈り上げたり、大きな傷が残ったりするわけではありませんので、治療翌日から出勤しても脳外科治療を受けてきたと気付かれる可能性はほとんど無いのではないでしょうか。
治療の有効率は90%前後という報告が多いようですが、実際の経験からはさらに高いのではないかというのが実感です。また、腫瘍の縮小の前に神経症状が改善することが多く、治療が早ければ早いほど高い効果が期待できます。これには早期発見が重要ですので、がんと診断された場合、定期的な脳内環境の評価は今後さらにその必要性を増すのではないかと思われます。
検査および治療については、主治医の先生とよく相談することが大切ですが、ガンマナイフ治療は脳外科治療の中でも非常に特殊な分野になるため、ガンマナイフ専門医からも十分な説明を聞かれることをお勧めします。
大切な自分自身のための治療です。他人任せにせず、どの治療法が最適か十分吟味したうえで選択されることをお勧めします。説明をお受けになる際は、十分理解し納得されるまで担当医の説明をお聞きになり、疑問な点は遠慮無く質問される事が大切です。
治療は医師だけで行うものではありません。より良い治療のためには、医師の努力はもちろんのことですが、担当医師との信頼関係を構築する患者さんの努力も重要な要素だと思います。