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打てば響くか?(2005年7月5日掲載)

諏訪園秀吾(国立病院機構沖縄病院)

連絡具合調べる筋電図検査

神経と筋肉の異常を発見

わたしたちが自分の意志で行ういろんな動作は、脳が発した命令が神経を経由して筋肉を動かすことで実現しています。したがってその伝達系統のどこかに問題があれば、本人に動かそうとする意志があっても、脳から発せられた命令がきちんと伝わらないので、うまく動かせない症状が出現します。つまり、打てども響かない状況になるわけです。

筋電図検査は、この神経と筋肉との「連絡の具合」が調子よいかどうかを調べる検査です。ごく弱い電気を使って刺激をしますので、最初はびっくりしますが、安全な検査です。今回は、この検査が医療現場でどういう風に役立っているかということを少しだけ紹介してみたいと思います。

Aさんは二十三歳男性。三週間ほど前に、ひどいかぜをひいたそうです。受診の三日前から足に力が入りにくくて、立ち上がるのが大変になり、一日前から腕を持ち上げるのもつらくなったという訴えで来院されました。筋電図検査をしたところ、神経の皮がむけた時に得られる検査結果が得られ「ギランバレー症候群」という名前の病気でした。点滴治療を行い、約一カ月後に全く正常に復した状態で元気に歩いて退院されました。

三十三歳女性のBさんは、約二年前から物が二重に見える症状が出現しはじめ、徐々に悪化しました。この症状は、朝方よりも夕方に強くなり、昼寝をした直後、少しの間は改善するのだそうです。また、調子の良い日と悪い日の差が大きいのだそうです。「重症筋無力症」という病気が考えられたので、筋電図検査により、筋肉の疲れやすさを評価しました。のみ薬だけで症状をうまくコントロールすることができるようになり、約三週間で退院されました。

Cさんは、退職した約一年前から、パソコンを本格的に始めた六十五歳の男性です。練習に熱が入りすぎたのでしょうか、最近一カ月ほど右の親指と人さし指がじんじんする感覚があり、夜中に手が痛くて目が覚める、という訴えで来院されました。筋電図検査の中でも感覚神経の伝わり方の様子を調べる検査で、「手根管症候群」という病気が判明しました。外来通院をしていただいて、のみ薬を調節し、パソコンに向かう時間を減らしていただくことで、症状はほとんどなくなりました。

神経系統の病気には、いわゆる難病(あまりよい呼び方ではありませんが)が多く、一度入院すると退院できない病気が多い、と世間一般で言われていると聞きますが、決してそんなことはありません。元気に退院なさったために病院とは縁が切れてしまい、こちらからご連絡を差し上げない限り二度と会えない患者さんも多数おられます。

もちろん、中には一生うまく付き合っていかなければならない病気もあります。しかし「無病息災」の理想が実現不可能である以上、「寡病息災」を目指していただきたいものだとわたしは思います。「寡病息災」とはわたしが勝手に作った造語です。「寡病」、つまり少ない病気とうまく付き合う中で、いつもほんの少しの注意を自分の体に向け続けることができるようになります。いわゆる「医者の不養生」とは正反対の状況をおつくりいただくわけです。これにより、結果的に息災に近い状態を実現していただきたい、というのがわたしのささやかな希望なのです。