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愛は子宮を救う(2005年5月31日掲載)

具志堅益一(中部徳洲会病院)

切らずに治す動脈塞栓術

負担少なく、高い満足度

よく「きれやすい女性」のことをヒステリーだと言って、女性の方は差別的に言われたことがあるかもしれません。しかしそのヒステリーの語源がギリシャ語のHYSTERA(ヒステラ)から来ていることは意外と知られていません。これは子宮という意味でそれゆえに「女性は子宮で考える」ともいわれています。

子孫を残していくために必要な子宮に筋腫が生じて、日ごろ、生理痛、過多月経、貧血、頻尿等に悩み、婦人科を訪れる方々は、医師からこう言われる。「もうお子さんは二人もいらっしゃるのだからいっそのこと子宮は取ってしまったら。その方がつらい生理より解放されて、快適な生活が送れますよ。子宮がんの心配もしなくてもいいし」。患者さんの方は「そうなんだ、確かに必要ないな。いっそのこと取ってしまって楽になりたい」となる。

治療の選択権は患者さんにあり、医師は患者さんに十分な医療情報を提供する義務があります。子宮を取るか残すか。本人の意思で決定すればよいのですが、子宮は女性の象徴なのかもしれません。そこで最近メディアでも時々紹介されている子宮動脈塞栓(そくせん)術を紹介します。

この治療法は子宮を温存する治療法です。子宮筋腫で全摘を勧められた方に対して行う治療法で、カテーテルというビニールに似た素材の細い管を太股(ふともも)の動脈から子宮の左右二本の動脈に挿入して、ゼラチンでできた塞栓材で一時的に血流を遮断し、筋腫の栄養(酸素)を断ち切り、枯らしてしまうという方法です。

筋腫はやがて枯れてしまい、サイズは縮小し、おとなしくなってしまいます。とくに成長した筋腫に非常によく効きます。子宮の動脈をつめて血流を遮断しても子宮そのものは周囲の動脈(卵巣や膣(ちつ)の動脈)から栄養を受け、子宮が傷むことはまずありません。

治療は約一時間程度で終了します。術後当日から翌日くらいまでは塞栓の影響で下腹部に痛みが生じますが、これは治療が効いている証拠であり除痛薬でコントロールします。お腹(なか)を切るわけではないので、太股に三ミリメートルほどの切開痕が残るのみで、元気な方は翌日より歩いており、三日ほどで退院して行きます。

この治療は一九九五年ごろより欧米で報告が出始め、国内では九八年ごろより始まり、既に全世界では約四万件、国内でも推定三千件ほどの実績があり、90%以上の成功率、満足度が得られ、新しい筋腫の治療法の一つとして確立されています。

これまでに八十人の方にこの治療を行ってきましたが、職場復帰も早く、治療を受けられた方々は月経時のつらい症状から解放され、「生理痛が楽になった。出血量が減って貧血が改善し、体が非常に楽になった。頻尿がなくなった」など、当院のアンケートにおいても90%以上の方々が高い満足度を示しております。中には筋腫が原因でお子さんをあきらめていた二人の方が、術後の不妊治療により見事にお子さんを授かり、非常に喜ばれました。

この治療はカテーテル手技を得意とする放射線科医が行いますが、婦人科医の協力、連携なしでは施行しえません。「もう子供を産むわけでもないし、いっそのこと取ってしまおう」とあきらめる前に、子宮筋腫でお悩みの方は一度近くの婦人科医または放射線科医の在籍する病院でご相談ください。