高齢社会が進行する中で障害と慢性疾患を抱えながら在宅で療養生活を送る方々が増加しています。それらの方々にとって在宅医療は質の面でも量の面でもニーズは増大しています。在宅医療はこの三十年余の間に大きく発展しています。
一九七〇年のころの在宅医療は往診医療が一部の医療機関で例外的に行われる程度で医療の中に占める割合も微々たるものでした。その当時の往診は死亡診断書を書いてもらうための往診が多かったのを覚えています。
本土復帰前の沖縄は入院ベッドの不足、医療保険制度の不備、医療費の自己負担が大きすぎる等の理由から入院医療を受けられない方も少なくなく、在宅で急性疾患(脳卒中や胃潰瘍(いかいよう)等)の治療を余儀なくされる場合がしばしばありました。
人口の高齢化とともに脳卒中や慢性疾患が増加し、在宅で寝たきりになったり認知症になったりする方が年々増える中、訪問看護のニーズも大きくなりました。在宅で療養する患者や家族の要望に応えて在宅医療制度は整備が進み利用者も多くなってきました。
現在は医療保険制度と介護保険制度の中に在宅医療は位置付けられています。往診から始まった在宅医療は、定期訪問診療、訪問看護、訪問リハビリテーション、訪問薬剤指導、訪問栄養指導、訪問歯科診療等と発展し、在宅医療に参加する医療職種も医師、歯科医師、看護師をはじめ理学療法士、薬剤師、栄養士らがチームを組んで行うようになりさまざまなニーズに応えられるようになっています。
また、在宅療養者の夜間の急変時にも対応出来るため病院と診療所、診療所と診療所が二十四時間にわたって連携する制度も整備されています。在宅関連の医療機器も大きな進歩が有り、病院に行かなくとも在宅で心電図、超音波検査、エックス線検査、血液検査等、診断や治療に必要な検査が受けられる様になっています。
三十年前と比べると在宅医療の進歩は隔世の感があります。以前は入院医療でしかできなかった人工呼吸器の管理や在宅酸素機器の管理、胃瘻(いろう)の管理、高カロリー輸液の管理も在宅でできるようになりました。さらにがん患者の緩和医療も在宅でできる時代になっています。
沖縄でも在宅医療に積極的に取り組む医療機関が増えていますが、東京の先進的な医療機関の取り組みに比べると在宅医療のシステムの面ではまだ立ち遅れています。在宅医療にかかわる医療スタッフ間の交流や研究会等取り組みを強め、在宅医療のレベルの向上を図り、多くの県民に対する啓発活動を強める必要があると思われます。在宅医療を利用されたい方は各地域の医師会や市町村のメディカルインフォメーションセンター、介護保険課、在宅介護支援センター等に相談されるとよいと思います。