沖縄県医師会 > 健康の話 > うちなー健康歳時記 > うちなー健康歳時記2005年掲載分 > 胃十二指腸潰瘍とピロリ菌

胃十二指腸潰瘍とピロリ菌(2005年4月26日掲載)

嘉数昇康(嘉数胃腸科外科医院)

原因菌除去で再発減少

解明待たれる がんとの関係

四―五月と十二月は胃十二指腸潰瘍(じゅうにしちょうかいよう)が多くなる。歓送迎会、忘年会でお酒を飲む機会が多く、ストレスも増えるからだろうか。しかし、ピロリ菌除菌が健康保険適用になってから、多くの胃十二指腸潰瘍の患者さんが治療を受け、再発が少なくなってきている。毎年五月ごろ腹痛を訴えてきたAさん、よく下血を繰り返したBさんもピロリ菌を除菌してから全く再発しなくなり来院しなくなった。改めて良い治療法ができたなぁと思う。

一九八二年以前は、抗潰瘍薬はあまり効かず、狭窄(きょうさく)、出血、穿孔(せんこう)の合併症も多く、また難治性潰瘍でも外科手術に頼っていた。八二年よりH2ブロッカーという薬が発売され、潰瘍治療が一変し潰瘍が治るようになり、九一年にプロトンポンプインヒビターというさらに効果の強い薬の登場で早く治り合併症も減り、手術症例が減ってきた。二〇〇〇年のピロリ菌除菌の保険適用で、三種類の薬を一週間のむだけで除菌でき、再発症例も減ってきたのが実感である。

ピロリ菌が胃粘膜に接着するとアンモニア、毒素を産出し粘膜を傷つけ、炎症細胞、免疫細胞がピロリ菌を排除しようと集まってきて炎症を引き起こす。このように胃壁が脆(もろ)くなっている所にストレスとか薬剤とかのいくつかの因子が重なって粘膜がえぐられて潰瘍ができるといわれている。しかし必ずなるわけでなく、約3―4%ぐらいの人が潰瘍になるようだ。

先日、姪(めい)より電話があって、「おなかが痛くなり近所の病院で胃カメラ検査を受けた。結果は胃炎でピロリ菌が少しいるとのこと。がんの心配もあるので、保険が効かなくていいからピロリ菌を除菌したい」と相談を受けた。心配は分かるが、ピロリ菌と胃がんの因果関係は正確に解明されているわけではない。除菌したら胃がんにならないのか。胃がんでピロリ菌が多いというだけで果たして本当に胃がんの原因の一つか。除菌しても胃がんの発生率に有意差がないという論文もある。今後の調査研究の結論が待たれるところだ。またピロリ菌の遺伝子解析も行われており、このタイプなら除菌不要、このタイプなら胃がんの発生率が高くなると分かれば、新しい展開になるだろう。潰瘍以外では保険適用外となっているのは、その辺のところがはっきりしていないからではないか。

除菌療法の副作用として軽いものは排ガスが増える、軟便、味覚異常、ひどいものは発熱、血便などがある。軽い副作用の時はそのままのみ続けてもらう。また除菌が成功した患者さんの一部に胃十二指腸のびらん(ただれ)、逆流性食道炎が報告されている。

とはいえ、ピロリ菌除菌は良い治療法であり、胃十二指腸潰瘍の約90%の方が除菌でき再発を予防できる。心当たりの方はお近くの医師にご相談していただきたい。また、時節柄、ストレスをためないよう、お酒を飲みすぎないよう注意しましょう。