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院内感染とその対策(2005年4月12日掲載)

久手堅憲史(琉球大学第一内科)

通常は十分に対応可能

予防策の忠実な実施が基本

「院内感染」という言葉を聞いてどのようなイメージを持つのでしょう。治療の方法もないようなえたいの知れない病原菌が病院に棲みついていて、病気を引き起こすようなことを想像するかもしれません。しかし、実際にはSАRSのようなまったく新しい病気が出てきた直後のような特殊な状況を除いては、普通に見られる院内感染は原因となる細菌に対する診断法も治療法もよくわかっており、十分に対応が可能です。

院内感染が社会的にも大きな問題となってきている背景として、病院内という環境に特有な二つの問題があります。一つは、耐性菌という薬の効きにくい菌が出てきてしまう問題です。薬を使えば使うほど、生き物である菌の側も抵抗して薬が効きにくいように変化してしまうものなのです。もう一つは、病院にはお年寄りや大きな手術やそのほか特殊な病気が原因で感染にかかりやすくなった患者さんがたくさん入院しておられるということです。医療の進歩により以前は救えなかった患者さんの命を救うことができるようになりました。しかし、その反面、病院内には長い闘病を続けている、抵抗力の落ちた患者さんが、増えています。この抵抗力の落ちた患者さんにひとたび耐性菌が感染してしまいますと、治療は困難となり生命に危機が及ぶことさえあるのです。しかし、この耐性菌は病気を起こす力はそれほど強くないため、入院していても抵抗力の落ちていない患者さんに病気を引き起こすことはほとんどありません。

院内感染に対する医師の意識・関心は年々高まっており、それと平行して院内感染対策も進歩してきています。今では各病院でいろいろな対策を行うことが義務づけられています。院内感染対策委員会という会議を開き、病院職員の感染に対する知識を高め、また実際に院内感染が起こっていないか、調査を行います。そして、院内感染のきざしがあれば、早めに対応することで、被害を最小限度にとどめるように努めます。手洗いの徹底や手袋の使用など標準的な感染予防策を基本に忠実に丁寧に行うことが基本であり、もっとも大切なことです。しかし、どんなにきちんと対策をしていても院内感染を完全になくすことは不可能であると考えます。

一方、今日ずさんな管理をしていた病院での院内感染の例が次々と報道されていることに私たちは心を痛めています。一般の方々の医療に対する不安や不信が高まっているように感じます。このような状況は健全な医療の妨げにさえなってきています。医療は医療従事者と患者さん相互の信頼がなければうまくいかないものです。現在の状況を改善するためには、医療者側がさらなる努力を重ねていくことはもちろんですが、一部の例外的な事件ばかりを取りあげることなく、大多数のまじめに頑張っている病院の努力もわかってほしいと思っています。